ハビタットが提供する海外建築ボランティアプログラム「グローバル・ビレッジ・プログラム(GV: Global Village Program)」は、きちんとした住まいを必要とする家族(ホームパートナー家族)が、海外から訪れるボランティアとともに家を建てる活動です。そのホームパートナー家族にかかわり、現地でともに建築作業に携わるボランティアの多くが、自らもかけがえのない何かを得て帰国すると言います。
8月13日の夕方、カンボジアはシェムリアップでの全12日間の行程を終えて日本に帰国したのは、児童養護施設星美ホームに住む高校生3名と、津田塾大学と神田外語大学のキャンパスチャプターに所属する大学生7名の合同チームです。お互いを良く知らない者同士が集まったチームで、かつ高校生にとってははじめての海外渡航、一部の大学生にとってもはじめてのボランティア活動ということで、一軒の住居を建てきることができるのか、出発前にはそれぞれ不安を抱えていました。しかし帰国時には、その表情に心地よい疲労感と達成感が表れていました。12日間でどんな経験をしたのでしょうか。
現地での活動には、5日間の建築活動と4日間の観光が含まれました。建築活動初日、英語での日常会話ができる学生ボランティアは、現地ハビタットのスタッフとなんとかコミュニケーションを取りながら作業の指示を聞き、一日の予定作業を終えることができました。しかし、現地語しか話さないホームパートナー家族や大工職人とのやり取りをする場面はほとんどありませんでした。
ところが2日目3日目と進むと、作業は複雑さを増し、大工さんに聞かなければ分からないことも増えてきます。ボランティアの学生は、苦心しながらも、身振り手振りでコミュニケーションをとりはじめました。地元の人たちの明るい雰囲気にも支えられ、ホームパートナー家族、地元の大工職人、そしてボランティアの間にあった見えない壁が徐々に溶けて消えていきました。建築活動の後半には、暑さや時々やってくるスコールにもかかわらず、現場には笑い声やお互いを励ます掛け声が絶えず、ひとりひとりが住まいの完成を願いながら、協力して作業を行いました。
この間、ホテルに戻ってからの振り返りミーティングでは、地元の人たちとのコミュニケーションが話題に上ることも少なくありませんでした。最初は知らぬ人だった相手に、声をかけ、関心を持ち、言葉の壁を越えてコミュニケーションをとれることに喜びを感じたボランティアもいました。
同時に、現地家族の生活状況も少しずつ見えてきました。ホームパートナー家族は、妻は畑仕事の手伝いがあるときには数ドルの稼ぎがあります。夫は牛の世話を無償で請負っています。うまく世話をして子牛が生まれれば自分の牛になり、育てれば売ることで現金を稼ぐことができますが、それには数年かかります。2歳の子どもを抱え、一日2ドル以下での暮らしぶりはとても質素です。現在の住まいは竹とバナナの葉を組んで建てられた家で雨漏りや傾きがあり安全とは言えず、トイレもありません。嵐の時には近所の家に避難をさせてもらっています。あるボランティアが現地スタッフの通訳を介して「幸せですか」と夫婦に問いかけました。すると夫婦はともに笑顔で、「たくさんのものは持っていませんが、日々幸せです」と答えました。
その日の夜の振り返りでは、複数の学生から「幸せ」とは何だろうという声が聞かれました。
出会った家族から発展途上にあるカンボジアの人たちの暮らしぶりを垣間見たボランティアたちですが、中にはそれを機に、日本の暮らしや、自らの育った境遇についても同時に考える機会を得た学生もいました。ある日には、日本で日常的に使われている便利な家電などについて、使ったことのないカンボジアに暮らす人が知る機会があった方が良いか、あるいは知らないほうが幸せなのか、ということが議論に上りました。またある高校生は、見聞きする現地の生活と自分の辛い経験とを照らしあわせて、様々なことを考えはじめました。家庭でのネグレクトを経験し、長年劣悪な環境で暮らしたその高校生は、カンボジアでの出会い・経験・時間を通して、自分の将来を考えはじめました。いつか、自分と同じような経験をしている親子を支援する団体を立ち上げたいと気持ちをあらたにし、高校卒業後は考えていた就職ではなく進学をすることを考えはじめました。
それぞれが様々な思いを抱えて迎えた建築活動最終日。作業が終わるのか不安のあった学生ボランティアは全員で力を合わせ、無事にひとつの家族のために住居を完成させることができました。ボランティア、地元の大工職人、地域住民やコミュニティのリーダーなど活動にかかわったあらゆる人たちが集まり、家族の新しい門出をお祝いしました。
ハビタットの活動は、ボランティアする側とされる側が対等の立場で取り組みます。現地の家族は新しい住まいを得てあらたな一歩を踏み出します。活動に参加した学生は、現地の人々との出会いとチームで取り組んだ活動を通じて、多くのことを感じ、経験し、吸収しました。そして双方が同じ思い出を共有し、またあらたな人生の1ページを切り開きます。
ハビタットは今後も、「誰もがきちんとした場所で暮らせる世界」の実現を目指し、ホームパートナー家族とボランティアとともの歩んでいきます。