ハビタットの国内居住支援「プロジェクトホームワークス」では、居室内の環境改善を必要とする方に寄り添い、片付けや清掃を通じて「今ある住まいを守る」取り組みと、お一人では住まい探しが困難な方に寄り添い、「新しい住まいにつなぐ」入居支援に取り組んでいます。

入居支援で支援する方(ホームパートナー)の中には、すでに住まいを失われホームレスシェルターや安価なビジネスホテル に滞在されている方がいます。こうしたホームパートナーの方にとって、新居となるアパートへ引っ越しする日はとても慌ただしい一日となります。多くの方が生活保護を受給することから、 引っ越し当日は役所に出向き、保護費の受給を受け、不動産店で契約をした後に鍵を受けとり引っ越すというパターンが見受けられます。そして、新居に到着する頃には、保護費で購入した生活に欠かせない炊飯器や布団といった家財が搬入されてきます。一息できるのは、すべての家財搬入を終えた後です。業者さんが帰り、搬入された家具を片付け、一緒に真新しい布団にシーツをつける頃になると、ぽつりぽつりとご自身の思いを話してくださる方がいます。

先日入居をお手伝いした山本さん(仮名)は、路上販売の仕事を続けながらカプセルホテルで寝泊まりする生活を10年以上続けられ、新居に並んだ家電たちに名前をつけるお茶目な方です。「なんだか信じられません。わくわくします。でも今夜は眠れないだろうな...」そう話し、山本さんはこれまでの生活を少しずつ振り返り始めました。出てくる話題は、長く続けてきたご自身の仕事への愛着と、それを通して出会った関係者やお客さんへの感謝の思いでした。60代後半の山本さんにとって、立ち仕事の路上販売は楽なものではありませんが、「お世話になってきたので、もう少し頑張りたいんです」と胸の内を明かしてくれました。昨年4月の緊急事態宣言発出時には街行く人がぐっと減ってしまい、定期的に購買しに来てくれていたお客さんたちはテレワークになったのか、あるいは職を失ったのか分からないまま見かけなくなってしまったそうです。そのため、売り上げが激減し、路上販売の仕事だけでは生活が成り立たなくなってしまったそうです。そこで、生活基盤となる「住まい」を確保するために、この春から仕事を続けながら生活保護を受給し、住まい探しを始めることになりました。

ハビタットの「新しい住まいにつなぐ」入居支援は、3月頃から相談の件数がこれまでの倍近くに増えています。相談くださる方のなかには、住民票や緊急連絡先、携帯電話が無いなど、物件探しに不可欠なものが揃わず、不動産店へ同行する前の支援が必要な場合も少なくありません。山本さんの場合も同様で、カプセルホテルでの生活が長く続いていたので、「住民票」がどこにあるのか分からなくなっていました。そこで、まずは住民票の所在地を探すため、最後に住所が置かれていたと思われる地域の役所や、本籍のある役所などに電話をし、どのような手続きをすればよいのか相談することから始めました。手続きは郵送でできるとのことでしたが、必要な書類は役所のホームページからダウンロードし、印刷しなくてはいけないことや、聞きなれない名前の書類を揃えなくてはならないこともあり、山本さん自身も「頭が混乱してしまいます」と話すように、お一人でその手続きを進めていくのはとても難しいものでした。ハビタットのスタッフと一緒に電話で確認し、ひとつずつ必要なものを揃えながら手続きを行いました。すると、山本さんの場合は長く居住の確認がとれていなかったことから、最後に置かれていた住所には取り消し線が引かれ、山本さんの住民票がどこにも置かれていない状態になっていることが分かりました。

住民票が存在しない場合の対応について役所に相談をし、ようやく揃った 必要書類を持って、現在の一時的な住まい(シェルター)がある地域の役所で住所を設置する手続きを済ませることができました。そして、ここからがアパート探しの始まりです。

住民登録を終えることができた山本さんは、お住まいになられたい地域以外の条件にこだわりが少なかったこともあり、幸運にも早々に希望に沿った物件を見つけることができました。山本さんがかつて住んでいたのは会社の寮だったこともあり、ご自身の名義でアパートを借りるのは今回が生まれて初めてのようでした。「一人ではどうして良いか分かりませんでした。私のような人は他にもたくさんいるように思います」と山本さんが振り返るように、アパート探しがどんなものかをイメージすることができずに不安を抱え、さらに住民票を取得しなおさなくてはいけない状況はとても難しい場合があることが想像できます。

新居での暮らしを始めて数日、山本さんにお電話をすると「まだドキドキわくわくが続いています」と、新生活を送ることに嬉しさを感じている一方、きちんと生活していかなくてはという不安も抱えているようでした。ハビタットでは居住支援を行う他団体と連携し、必要に応じて入居後の生活も見守ってまいります。