1月に新しい住まいへ引っ越し、アパートでの生活を始めた60代後半の山田さん(仮名)のお宅を、先日久しぶりに訪ねました。部屋におじゃますると、室内はとてもきれいに整っており、「どうぞここに座って。牛乳でも飲む?」などとおもてなしの心遣いをしてくださる様子から、アパートはしっかりと“山田さんの部屋”となっていることが感じられました。引っ越してひと月半ほど経っているので、生活はだいぶ落ち着いているようです。しかし、引っ越し前後の時期はとても不安でいっぱいな山田さんの姿がありました。新しい住まいで安心して生活を続けていくには、周りのサポートが欠かせないことを、私たちは山田さんの引っ越し後の生活を見守るなかで気づかされました。
ハビタットの「新しい住まいにつなぐ」活動では、主にアパート探しのお手伝いや内見同行などを行っていますが、必要に応じて入居後の見守りも行っています。山田さんは、アパートに引っ越すまでの7年近くを福祉団体が運営する個室シェルターで生活されて、それ以前は長年野宿を経験しており、全くの一人暮らしは約20年ぶりです。そのため、引っ越しの数日前から不安を口にするようになり、引っ越してからも周りに迷惑をかけないようにと終始気にされている山田さんの姿がありました。新しいアパートでの暮らしは分からないことだらけで、毎日のようにハビタットスタッフと連絡をとり合いながら困りごとを伝えてくれます。同じ区内での引っ越しではありましたが、一番困っていたのは土地勘の無さです。役所や郵便局に行きたいけれども場所が分からず、ご自身で地図を購入していましたが字が小さく見えづらいと言います。「一度道を覚えたら大丈夫なんだけど、それまでがなあ…」と山田さん。また、不動産店からの大事な書類もなぜか届いていないようでした。
そこで引っ越しから一週間後に改めてハビタットスタッフがアパートを訪問し、困りごとのサポートをお手伝いしました。郵便局からは「居住確認問い合わせ」のハガキが届いていましたが、それも字が小さく読めていなかったようでした。一緒に記載をし、郵便局や役所までの道順を確認しながら歩きます。役所で比較的字の大きめな地図を受け取ると「これなら分かりそうだ」と安心されていました。不安も大きかった山田さんですが、それでもアパートのお隣さんにご挨拶をしつつ詳しいごみの捨て方を確認したり、道に迷えば人に聞きながらアパートまで帰ったりと、自分からも周りに積極的に声をかけながら生活している様子を話してくださいました。
もう一つ大きな困りごととして、山田さんはベッドを購入する余裕がなく布団を敷いて寝ていたのですが、元々腰が悪いため、その痛みで朝なかなか布団から起き上がれないとのことでした。腰が悪い山田さんにとっては床に座るだけでも一苦労です。山田さんの物件を見つけてくださった不動産店さんが福祉対応に詳しいとのことで相談すると、高齢者総合相談センターとつながる協力をしてくれました。更に相談員の方と共に山田さんのお宅を訪問し、困りごとを聞き取ってくれたことから、介護ベッドを試しにレンタルしてみることとなりました。介護ベッドは使ってみて必要なければ返品できるとのことでしたが、実際に使ってみた山田さんは「ベッドになって本当に良かった。とても快適です」と、今後もレンタルし続けることを決めていました。そして先日、改めてハビタットスタッフが訪問した際には、介護ベッドに腰かけ、嬉しそうにリクライニングの使い方を披露してくれました。
こうして様々な立場の方の力を借りながら、山田さんは少しずつ安心できる住まいを築いていっています。今も日々困りごとはあるようですが、日常生活援助のヘルパーさんに家に来てお手伝いしてもらうことには「恥ずかしいからいいよ」と抵抗感や遠慮があるようです。自分でできることは自分でやりたいという思いも強くあるので、その気持ちも大切にしつつ、ただ腰の痛みで近所に買い物に行くのもしんどいと話す姿もあり、心配は残ります。
困ったときに頼れる場を地域に少しずつ増やしながら、ハビタットもその一員でいられるよう、今後も山田さんの生活を見守ってまいります。ハビタットの新しい住まいにつなぐ活動の詳細はこちら。