4階あるから、4回休まないとあがりきれないんだよ。だから1階の部屋が良かったんだ」そう話すのは、60代後半の山田さん(仮名)です。先週7年暮らした4階の部屋から1階にあるアパートに転宅することができました。

山田さんは30代後半までとび職として建設現場で働いていましたが、不運なことに頭上から落ちてきた物にぶつかり転落するという事故にあったそうです。腰を痛めたという山田さん、事故による精神的なダメージも加わり、以来とび職としての仕事に復帰できなくなったといいます。そこからは仕事を失い、住まいを失い、路上での生活が始まったそうです。都内のいくつかの公園に滞在する中、趣味としてはじめたモノづくりにお客さんが付き、日銭を稼ぎつつ路上での生活を10年近く続けてきたそうです。

しかし、7年前にこれまで長年暮らしてきた路上から退去勧告を迫られ、それを機に生活保護を受け、都内にある福祉団体が運営するシェルターでの暮らしが始まりました。寝る場所も食べる場所も困らないものの、年齢を重ねるにつれ、腰の悪い山田さんにとっては4階にある2畳程度の部屋は外とのつながりを隔てる壁になっていったそうです。

シェルターで暮らし始めて5年、役所の方の勧めもありアパートへの転宅を試みたそうです。しかしながら、都営アパートへの抽選には外れ、1階の部屋はなかなか見つからないため引っ越しできずに2年が過ぎたそうです。そうした現状を見かねて、宿泊所を提供する福祉団体が居住支援法人であるハビタット・ジャパンに山田さんをつないでくださいました。「ハビタットに出会わなければ、あと3年はシェルターから出られなかったと思う」そう話す山田さんからはスタッフに何度も感謝の言葉が掛けられていました。

アパート探しは町の不動産店を訪問したり、ネット上で物件を閲覧することから始められるように思えますが、山田さんのような生活状況でかつネットにアクセスのない方にとっては、アパート探しは困難がつきものです。町の不動産屋さんに飛び込みで相談しても、その多くから返ってくる応答は「福祉の物件は取り扱いがない」というお断りです。無数に存在する不動産店の中には、こうした福祉物件の取り扱いを親身に対応してくださる店舗もありますが、そうした不動産店とのつながりがない中での物件探しは体力と根気を要します。信頼ある不動産店に出会えても、65歳を過ぎると高齢者とみなされるため、紹介される物件がごくわずかなことがほとんどです。また紹介された物件も、急な階段を上らなくてはいけない2階の物件や、風呂トイレ共用の物件になってしまします。しかし、住まいは生活の基盤であり、そこに住まう人にとって心身ともに安心・安全に暮らせる場所である必要があります。

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引っ越し当日にアパートを訪れると、「周りの住人に引っ越しの挨拶に行った方がいいかな」と気にされる山田さんがいました。以前のお住まいはいつでも捨てられるゴミ集積小屋があったそうですが、今回は集団回収であることから、「周りの人に迷惑を掛けられない。どこに集積場があるのか」といったことを終始気にされるなど、20年以上ぶりにご自身の住まいを手に入れ、そこで長く暮らしていきたい思いが伝わってきました。「これからの楽しみは、4階までの上り下りを気にせず外に出られること」そう期待に胸を膨らませる山田さんが自立した生活を営めるよう、ハビタットでも当面は山田さんの新生活を見守ってまいります。

入居支援はハビタットが取り組む国内居住支援「プロジェクトホームワークス」の一つです。「新しい住まいにつなぐ」入居支援、そして「今ある住まいをまもる」清掃支援の二本柱の活動は、ハビタットの活動に賛同くださるサポーターの皆さまからお寄せいただくご寄付で活動を継続できています。活動へのご寄付はこちらよりお願いいたします。