「引っ越しに向けた片付けのお手伝いを一緒にやってほしい」そんな相談がハビタットに多く寄せられています。住んでいるアパートが建て壊しとなり引っ越す方や、中には、コロナ禍で仕事を失い、家賃が払えずに引っ越すことになった方もいました。共通しているのは、どなたも今のお住まいが物に溢れた状態にあるということです。

そうした相談者のお一人が、都営住宅への引っ越しが決まった鈴木さん(仮名)です。「引っ越しが迫っているが、物が多くて仕分けきれない」と、鈴木さんのケースワーカーさんからハビタットに相談が寄せられました。鈴木さんは80代後半の母親と二人で2階建ての借家に暮らされています。1年ほど前に足を怪我したことで仕事を失い、そこから仕事に復帰できずにいました。高齢の母親と足の不自由な鈴木さんにとっては、2階へと続く急階段を上ることは難しく、今は1階にある一部屋とキッチンスペースのみを使い生活しています。スタッフが下見に訪れると、押し入れや棚だけでなく、生活空間にも物がびっしり詰まっている状態でした。

ケースワーカーが、鈴木さんに片付けを促したり、手伝ったりしてきたと言いますが、体力的な問題もあり、お二人ではなかなか進まずに引っ越しの日が迫ってきたそうです。物を減らさなくては新しい住まいが段ボール箱で埋め尽くされてしまう、そんな不安を次第に募らせていったそうです。

支援当日、ボランティアの学生に加え、ケースワーカーも駆けつけ、鈴木さんのお宅で片付けを行いました。キッチンを片づけていると、埃をかぶったものがたくさん出てきます。スプーンやフォークも何十本と出てきました。「もう梅も漬けないし、その大きなビンは使わないね。昔はお客さんが多くて皆に料理をふるまっていたからスプーンがこんなにあるのよ。でももう必要ないね」と、お母さんは昔の様子を思い出しながら、そしてどこか寂しそうにお話されていました。今も使っているという食器類や、最低限の調理器具を引っ越し用の箱に詰めていき、使わなくなった物たちを処分すると、あっという間にキッチンが広くなりスペースが広がりました。

引っ越しへの見通しがつき、新生活に向けた希望を持ち始めた鈴木さん親子にとって、片付けは今の暮らしを見つめ直し、快適な住まい環境を取り戻す一歩に繋がったようでした。

ハビタットが掲げるビジョン「誰もがきちんとした場所で暮らせる世界」は、住まいの支援を通じて、心身の安心と安全を感じられるような住環境を築くことを目指しています。居室内の環境改善を目指す国内居住支援「プロジェクトホームワークス」へのご寄付はこちらよりお願いいたします。