先日、ハビタットの国内居住支援「プロジェクトホームワークス」で清掃支援に伺ったのは、高齢でお一人暮らしの女性、吉田さん(仮名)のお宅です。吉田さんは認知症の初期症状が見られ、近年、物忘れや探しものが増えてきたといいます。そうした中、必要なものが見つけられないほど物にあふれた生活空間で暮らし続けることに吉田さんご自身が不安を覚え、自ら地域の高齢者センターに相談を寄せたそうです。その相談を機に、ハビタットにつながり、居室内の環境改善に取り組むことになりました。

活動前の事前下見に訪れると、吉田さんは部屋を片付けたいという気持ちを抱きながらも、部屋を見られる恥ずかしさから抵抗感をお持ちのようでした。また、他人の力をボランティアとして借りることに申し訳なさを感じているようです。それでも、ご自身では片づけができないことから、ボランティアを受け入れ片付けに取り組むことを決心くださいました。コロナの影響でハビタットとしてボランティアを動員することが未だできない中、活動はハビタットスタッフに加え、ケアマネジャーさんたちにもご協力いただきながら進めることになりました。吉田さんは、活動中も終始申し訳なさを感じている様子で、「こんなところに来てもらって恥ずかしい。あとは自分でやります」と何度も話されます。けれども、古くからある食器や布、雑貨類などたくさんの物たちは、足腰が弱ってきている吉田さん一人では到底片づけられる量ではありません。活動初日は手元に残しておきたい物も多く、あまり荷物は減りませんでした。それでも、少し小さくなった荷物の山を見て、「あら、あちら側が見えるようになったね」と吉田さんは嬉しそうに話してくださいます。

前回の作業を通じて片付けへの前向きな姿勢が吉田さんの中に芽生えたのか、2回目に訪問した際には、少しですが、ご自身で作業を進めている様子が見られました。そして、この日は前回よりも取っておくものと手放すものを仕分けるペースが速くなっています。片付けを進めると、その方の大切な物が何か見えてきます。吉田さんにとって手放せないものが食器や布であることから、それ以外の雑貨の片づけを進めていきました。その中には、古い雑誌や写真など、歴史を感じるものもたくさん残されていて、ついつい作業の手を止めて見入ってしまう瞬間もありました。吉田さんの昔ばなしを聞きながらの作業は、終始和やかな雰囲気で進みます。そして、片付けを進めて行くと、次第に広い床が姿を現しました。その時、吉田さんの表情がふっと変わり、まるで体が自然と動き出したかのような機敏な動きで、さっと雑巾を手に取ると自ら床の水拭きを始めます。「あー、広い。気持ちいいわ」と、今まで私たちに対して申し訳なさそうな顔ばかりしていた吉田さんが、その時ばかりは本当に嬉しそうに微笑んでいました。

  • 活動前

  • 活動後

部屋の奥にある台所に行くまでも、これまでは荷物の間の細い道を通り抜けなければならなかった吉田さんのお宅ですが、今では安心して台所まで歩けるようになり、生活導線を確保することができました。「これだけ広ければ、ヘルパーさんにお掃除を手伝ってもらえますね」とケアマネジャーさんが声をかけると、またいつもの申し訳なさそうな顔で「そんなの悪いから、自分でやりますよ」と答える吉田さんです。しかしながら、ケアマネジャーさんによると、吉田さんの認知症の症状は少しずつ進行しているといいます。自らの生活に不安を覚え、ご自身で高齢者センターへ相談を寄せた吉田さんの行動は、ケアマネジャーをはじめ、ハビタットとのつながりを築く一歩、そして、困りごとを周りに頼める環境を築くことで、安心・安全な住まいを築く一歩となりました。ハビタットが行う国内居住支援「プロジェクトホームワークス」の詳細はこちら。