ハビタットの国内居住支援「プロジェクトホームワークス(PHW)」では、片づけ・清掃支援は数回の活動を経てホームヘルパーなどの福祉サービスへつなげていくことが多いのですが、中には長期にわたる支援が必要となるお宅もあります。一番長く支援を続けているのは、すでに1年以上関わっている駒田さん(仮名)のお宅です。高齢でかつ、夫婦ともに持病を抱えるお二人が住む集合住宅は、外から見ると立派な住まいです。しかし玄関扉を開けると、居室内は天井に届きそうなほどに物が積み上がり、窓も物で完全に閉ざされた暗い空間であり、きちんとした住まいからは程遠い居住環境でした。

駒田さんのお宅での片づけには、これまで多くのボランティアが支援に協力くださっています。毎回少しずつしか片付けは進みませんが、小さな一歩が重なり、少しずつ物の積みあがった山は小さくなっていきました。そんな中、当初からこのお宅の片づけに力を注いでくれていたのが、ハビタットの学生支部「キャンパスチャプター」に所属する学生ボランティアたちです。長期にわたる支援が予想されたことから、ハビタットのパートナーであるキャンパスチャプターとの連携を模索し、支援に取り組んできました。キャンパスチャプターのメンバーも主体的に活動に参加し、駒田さんのお宅の片付けをどう進めて行くべきかの策を話し合い、何度もお宅を訪問し、片付けの支援に参加してくれています。駒田さんのお宅の片づけには、根気と体力が必要です。明らかなごみ類が無くなると、駒田さんの大切にしている大量の本と服が残ります。それをひとつずつ、必要なものと不要なものに分け、少しずつ床が見え、廊下が見え、また一歩ずつ片付けが進んでいきました。

  • ハビタットの支援が入り始めたころの様子

  • 最近は少し部屋らしくなってきた

支援を開始してから1年以上が経過した今も、学生ボランティアたちは、月に1回のペースでキャンパスチャプターからボランティアを募り、駒田さんのお宅を訪問しています。活動当初、駒田さん夫婦の寝床は廊下にあふれた物の上でした。学生たちは、持病を持つ駒田さん夫婦が快適な睡眠を持てるよう、居間を中心になんとか布団が敷けるスペースを確保しようと活動してきました。しかし、もう少しで布団が一枚敷けるスペースが出来そうだという頃、片づけた場所が次の訪問時には元の状態に戻り、前回と同じ片付け作業を繰り返すことが続きました。駒田さんと片付けをしていても、駒田さんが自分で片づける意識が減退しており、ボランティアにやってもらっている雰囲気になっていると、学生たちは感じている様でした。それは長く関わっている彼ら、学生ボランティアだからこそ、感じられたことかもしれません。駒田さん自身が目標を持って片付けに向き合ってほしい、そのためにはどうするべきなのか…。「駒田さんと直接じっくり話してみたい」そう学生が提案し、駒田さんの思いを聞く、ヒアリングの時間を持つこととなりました。

ヒアリングでは、学生たちがあらかじめ考えておいた質問を、駒田さんに投げかけます。「片付けのゴールはどこですか?」「どんな生活がしたいですか?」など一つずつ聞いていくと、駒田さんの理想の生活が見えてきます。駒田さんにとって、一番大切にするからこそなかなか捨てられないものが本でした。少しずつ床や本棚が出てきた居間を、駒田さんは読書スペースにし、ゆっくりと読書生活がしたいと話してくれました。そしてもう一つ、未だ手付かずで天井まで物が積みあがっている一室を、寝室にしたいということでした。そのために「サイズが小さく着られなくなった服を捨てたい」という、駒田さんの新たな決意も聞かれました。

ヒアリングを通して、学生からは、「駒田さんに理想の部屋像があることに安心した」「片付けながら活動の目標が見えなくなることがあったが、駒田さんの思いを聞けて良かった。目指すべきゴールが見えた」との声が聞かれ、具体的な片付けの進め方も見えてきました。一方、課題も見えたようでした。駒田さんのお宅は水回りが使えない状況なので「生活に不便なことはありませんか」と質問すると、少し考えた後駒田さんから返ってきたのは、学生ボランティアにとって予想外の「別に無いかな」との答えでした。物に溢れた居室内で暮らしてきた駒田さんにとって、「不便」という感覚が年月と共に薄れてしまったことに気づかされているようでした。

駒田さんへのヒアリングは、学生ボランティアによる一日の小さな一歩が、目指すゴールへ到達する確かな一歩だと再確認する時間となりました。ハビタットは、引き続き学生ボランティアと共に片付けを進めると共に、駒田さんの中に健全な住まいへの意識が育めるよう寄り添い、「誰もがきちんとした場所で暮らせる世界」の実現を目指して参ります。活動には皆さまのご支援とご協力が欠かせません。活動の詳細をはじめ、ボランティアとしての参加またご寄付はこちらをご覧ください。