「あなたたち役所からきたの?」、「何年も前から役所に足を運び相談していたのよ」、そう声をかけてくれたのは、年始の国内居住支援「プロジェクトホームワークス」で訪問した山田さん(仮名)のご近所さんです。

年明け初となるオープンボランティアデイを1月11日に開催しました。この日は、キャンパスチャプターを中心に、総勢9名ものボランティアが集まり、2軒のお宅で活動を実施しました。その一軒が、山田さんのお宅です。山田さんは、都内にある区営の集合住宅にお一人で暮らされています。腎臓を悪くし、週に3度透析を受けられています。加えて、幼少期の病気で難聴を患っています。現在のご自宅には、10年近く前に入居されたそうですが、近隣住民との交流はほとんどなかったようです。外からでは見えない居室内の問題に疑問を抱いたのは、山田さんが通う病院の医師です。山田さんの生活実態に不安を覚え、管轄する高齢者総合支援センターに相談を寄せ、支援員が山田さんのお宅を訪問しました。山田さんの年齢、そして健康状態から早速介護保険の利用につなげられたそうです。しかし、日常の生活支援となるヘルパーサービスを利用しようにも、何年もお一人で暮らされた山田さんのお宅は物に溢れ、サービスを開始するのが難しい状況でした。そこで、現在の住まいを改善し、ヘルパーサービスにつなげる支援としてハビタットに相談が寄せられたことで、ハビタットによる支援の実施が決まりました。

私たちが山田さんのお宅を訪問すると、重たい体を持ち上げ、玄関までボランティアを出迎えてくれました。ご自宅は、区営とのことですが都内にある一見素敵な集合住宅です。しかし、ひとたび山田さんのお宅の扉をあけると、そこは安心・安全とは程遠い、物に溢れた居住空間となっていました。足の踏み場もないほど物が溢れかえり、ゴミ出しもできていないことから衛生面が損なわれ、害虫が発生するなど、健康状態が脅かされていることが一目見て分かります。高齢で持病を抱え、支援を求めず一人で問題を抱えてきた山田さんにとって、支援を受け入れるのには勇気がいることです。下見に訪れた際も、家の中を見られるのが恥ずかしいと話していました。

活動当日は可燃ゴミの日。ゴミ収集車が来る前になんとかありったけのゴミを集めて出せるよう、慌ただしく活動していました。そうすると、何事かと近隣住民の方が廊下に出てきてくださいました。そして、山田さんのお宅の片付けだとわかると、ボランティアに「役所からきたのか」そう話しかけてくださいました。「プロジェクトホームワークス」のことを伝えると、驚きと安堵の様子をみせ、住民の皆さんが抱えていた不安を話してくれました。7年ほど前に、山田さんが暮らす集合住宅内に「連絡係」が発足されたそうです。その発足を機に、連絡係が耳の聞こえない山田さんの玄関扉を開き、その生活状況を知ったそうです。防災上の心配から始まり、害虫の発生が周辺住民の環境衛生面での不安となり、バルコニーに溢れる物の山は景観を悪くするなど、次第に住民間で問題となったそうです。そこで、住民の皆さんで役所に相談することを決め、これまで何度も役所に足を運び、相談を続けてきたそうです。しかし、区営住宅とは言え、居室内は個人の空間。区としての対応が行われることはなかったそうです。

プロジェクトホームワークスの実施で悩みになることの一つ、それが先述した片付けをした後に出る大量のゴミ処理問題です。ゴミ収集日が決まっていることで、活動当日にゴミを出すことができず、片付いた居室内に大量のゴミを袋に入れて戻すことが度々あります。しかし、活動を通じて出会うホームパートナーの多くが、身体的もしくは精神的な障がいを抱えているほか、ご高齢であるなどその身体的能力に限界があるため、ご本人に大量のゴミ出しをゆだねることが難しいケースが多くあります。ケース次第では、スタッフや相談を寄せてくださった地域の支援員の方がゴミを出すために再訪問することもあります。今回の活動で良かったことの一つは、近隣住民の方の協力を仰げたことです。集合住宅内でも解決すべき問題として捉えられていたため、ゴミ出しについて相談してみると、特別に協力してくれることになりました。本来ゴミ収集日にしか出せないゴミも、あいている倉庫の鍵を開けて下さり、ゴミの日まで保管してくださる了承を得ることができた上に、収集日には倉庫から出してくださるとの申し出もいただくことができました。こうした協力を得れたのも、ボランティアの協力があってこそです。ボランティアの中には、大阪から足を運んでくれた学生もおり、見知らぬ方のために時間を割いて片付けを手伝ってくださるボランティアの存在に、住民の皆さんは関心されているようでした。活動の終わりには、住民の方もボランティアと一緒に汚れてしまったマンションの廊下をほうきで掃いてくださり、最後にはボランティアの皆さんに飴を配ってくださいました。そこに山田さんも体を起こし出てきてくれました。「あなた、しっかりしなさいよ。ほら、こうやってボランティアに感謝しなさいよ」そう伝え、山田さんの背中をたたくご近所さん。問題を一人で抱えてきた山田さんにとって、居室内の改善だけでなく、活動を通じたご近所さんとの交流が、山田さんに新たなつながりを生む一歩になることを願っています。

山田さんのお宅の片付けにはもう少し時間がかかりそうです。身体的な能力の制限により片付けが難しかった山田さんにとって、居住環境の改善とあわせヘルパーサービスなど福祉サービスの利用につなげることができれば、これまでと同じ状況に居室内が戻ることはないはずです。ハビタットは、ボランティアの協力を得ながら、山田さんが安心・安全に暮らせる居室内の改善を目指して活動を続けていきます。