2018年に入り、もうすぐ活動を始めて1年になろうとしている国内居住支援プロジェクト(PHW:Project HomeWorks)。清掃支援を中心に、これまで100名以上のボランティアの方に参加していただきました。

支援活動では、さまざまな理由で片づけることができない状態になってしまった方の、片づけや清掃等を行ってきました。その多くは、一人では捨てるのに苦労するほど物がたまってしまった状態に困り、一緒に捨ててほしい、きれいにしてほしいというご依頼です。しかし中には、住空間に支障が出る場合でも、ご自身にとってどれも大切ものとして、手元に置いておくことを希望される方もいらっしゃいます。

今回PHWにボランティアとして参加した、中央大学に通う三瓶 杏沙美さん。一ボランティアとして何をすべきかと、自答しながら参加した活動を通して見つけた気付きを、お話しくださいました。

 


「まず自国である日本に目を向けてみる」中央大学 三瓶杏沙美さん

三瓶 杏沙美さん

今回私が参加させていただいた活動のご依頼は、アパートのベランダにある使わなくなった家具を外に出し、部屋の中に最低限のスペースを確保してほしいということでした。その方は高齢の一人暮らしの方で、手足が不自由なため、あまり重いものを持てないとのこと。部屋は8畳ほどでしたが、天井近くまで本や服が積まれ、その間のわずかなスペースだけで生活しているようでした。

一緒に作業しながらお話しすると、とても明るい方で、洋服が好きだと楽しそうに話してくださいました。数年前に病気で緊急入院し、それ以来、部屋の整理をしようにもできなくなってしまったそうです。荷物の中には、何が入っているのか、その方も覚えていないようなものもありました。「ここにあったんだ!」と見つけられた時には、嬉しそうにされていました。

 

コミュニケーションや信頼関係の大切さ

 


衣装ケースなどで埋まっていた部屋を片付けると、今まで圧迫感があり、息苦しいイメージのあった部屋に、新しい空気と光も入り、明るい部屋になりました。それでもまだ、生活動線を確保するためにものを移動しただけで、私は「やはり減らす必要があるな」と思いました。しかし、「いつか使えるかもしれない、予備としてとっておきたい」というその方の思いがあり、壊れて使用不可能のものや賞味期限切れのもの以外、捨てるということはありませんでした。ものを捨てられない』ということが、部屋にものが積み上がってしまう原因なのだと思います。また、自分の家にあるものを把握できていないので、また新しいものを買ってしまい、物がどんどんと溢れかえってしまうという悪循環があるのではと感じました。

一方で、未開封の衣装ケースも多くあったことから、片づけようとされてきたのだと思いました。事実、「部屋を片付けたいけど、一人では難しい。でも知らない人に部屋を見られるのは恥ずかしいし、何より申し訳ない…」そう思いながら、月日だけが経ってしまったとも、お話ししてくださいました。こうした思いを抱えながら、私たちボランティアを部屋に入れるのは、とても勇気がいることだったのではないかと感じました。 作業が終わると、「本当に助かったわ、ありがとう。また来てくださいね」と言ってくださいました。これは私たちを受け入れて、信頼してくださった証であり、その方にとって気軽にお願いできる、環境も作ることができたのかなと、嬉しく思いました。今回の経験を通じて、支援をさせていただけるまでには、コミュニケーションや信頼関係が大切であると実感しました。一緒に整理した服を着て、少しでも大好きなおしゃれを楽しんでもらえたらと思います。

 

3つの気付き

今回の活動を通じ、気付いことが、3つあります。

  • 1つ目は、住まいの問題は、外からは見えないものがたくさんあるということ。今回の家も、外見は普通のアパートですが、部屋の中はものが溢れていました。
  • 2つ目は、支援してもらいたくても、言い出せずにいる人がいるということ。
  • 3つ目は、国内居住支援といっても依頼者によってさまざまなケースがあることです。

初めてPHWに参加したときは、部屋のものを捨ててほしいというご依頼でした。しかし、今回は、できるだけ捨てずに部屋にスペースを作りたいということでした。依頼者の方それぞれに思いがあり、そのニーズに忠実に応え、より安心して暮らせる住みやすい環境を作るお手伝いをするのが、私たちのボランティアにできることだと思います。

今回、部屋自体は少し生活できるスペースは確保されましたが、まだまだ布団を敷く場所もなく、安心して暮らせる場所とは言えない状況です。また、その方が今回片付けた部屋の状態を保つことができるかも、わかりません。安心して、生活ができる住環境を整えるには、継続的にこのような活動をしていくことが必要だと思います。 

私たちが暮らしている日本は、貧困国に比べれば裕福に見えるかもしれません。しかし、生活一つひとつに目を向けると、『誰もがきちんとした場所で暮らせる』国とは言えないと思います。私たちの身近にも、住まいのことで困っている人は沢山いるということを、今回私は気づかされました。『誰もがきちんとした場所で暮らせる世界(注1)』の実現には、まず自国である日本に目を向けたこの活動が必要不可欠なのではないでしょうか。

(注1)『誰もがきちんとした場所で暮らせる世界 (A world where everyone has a decent place to live)』とはハビタット・フォー・ヒューマニティの理念です。


相手を思う気持ちが、時として価値観の押し付けになってしまうことがあるかもしれません。しかし、三瓶さんは、相手の方に最大限の敬意を払い、相手の思いに寄り添うことで、その方が喜んでくださる支援を届けてくださいました。

ハビタット・ジャパンでは、今後も一人ひとりの思いに寄り添った支援活動を、ボランティアの皆さまのご協力のもと、継続してまいります。これからも、ご支援・ご協力をお願いいたします。