[バングラデシュ ブアプール発 1月3日 プロジェクト・マネジャー 渡辺 和雄]
竹の表面に出ている節をとるためには、ナタのような道具を使う。稲刈りの鎌を大きくして、ごっつくしたようなものだ。形は旧ソ連の国旗にある「鎌」をご想像いただければ、よいか。
竹の節は50センチおきくらいにあり、これを取るためには結構、手間がかかる。このナタを32本購入して使いまわしているのだが、2週間も続けて使えば、ナタの切れ味が悪くなってくる。
チーム・リーダーが、作業の休みの日に鍛冶屋に持っていく、といいだしたのは4日前。
イスラム教徒の休日は金曜で、商店なども多くは休む。その日は鍛冶屋さんも休みたいのだろう。では、他の日はどうかというと、金曜以外は毎日こちらの作業が朝から夕方まで続いていて、道具は必需品だ。年末年始、トラック5台が計2500本も竹を運んできたので、切断と節の除去に作業は手一杯。目がまわるような忙しさだ。
木曜の朝、鍛冶屋さんが自転車でやってきた。
荷台に積んだ道具を降ろしている。
それを見れば、ここで鍛冶屋さんが仕事をするの。まさか――、という疑問が自然にわく。
鍛冶屋さんの出前?鍛冶って、ラーメンやチャーハンを中華の出前でとるみたいにできるっていうわけ。
チーム・リーダーに聞くと、「そうです」。
おう。電話を片手に、「チャーシュー麺に餃子を持ってきて。麺は固めで」などと注文したくなるではないか。ダッカの北80キロ、ここブアプールまで30分後に!
それはともかく、鍛冶屋さんは道具一式をとりだすと、2本の竹を地面に立てはじめた。
竹と竹のあいだに別の竹を渡し、それにヒモをかけて引っ張ると下においた装置から空気が一方向に出るようにした。その先に炭をおいて火をつける。
うまく説明できないので、写真を見てほしいのだが、肝心なことは、空気を送る蛇腹(じゃばら)の装置を思いのままに動かして、一定の空気を必要なときに送り、炭に火をおこしておく、ということだろう。ボウッと赤く火が起きた炭に、ナタを入れて熱する。
ナタがあまり熱くならないうちにペンチでつまみ、電車のレールみたいな台を下に敷いて、ハンマーでたたく。手慣れた動作で、ナタの刃を鍛えていく。
ダッカ・オフィスから出張できて1週間ほど滞在している西島恵さんが、「わたし、はじめて鍛冶屋さんが仕事をしているのを見ました」
そういわれてみれば、わたしもはじめてだ。かなり前、時代劇のテレビ・ドラマで見たことがあるような気もする。突然、「そういえばあの空気を送る装置は、ふいごと呼ぶんだよね」と思い出して口走ると、若い西島さんはヘッ?みたいな顔をして、あいまいな相づちをうっただけ。まあ、いいんだけど。。
鍛冶屋さんは、ものの3時間で32本のナタを仕上げ、来たときのまま自転車に乗って帰っていった。
これを書いている木曜の夕方5時過ぎ、仕事を終えた作業員たちの話し声が聞こえてくる。金曜の前日、週末である木曜は週払いの給料の支給日。だから嬉しいのだろうが、作業員は50人以上もいるので、やかましいのなんの。書類にサインか拇印を押し、お札を受け取ってから、ひとしきりまた騒いで夕暮れを家路につく。
(1月3日)
[渡辺@バングラデシュ、ブアプール] 鍛冶屋さんがやってきた
2008/01/18