コロナ禍の収束に伴い、海外建築ボランティア「グローバル・ビレッジ」プログラムが段階的に再開してから3年を迎えたこの春、遂に、日本からネパールへのGV派遣が再開しました。この春だけで、計3チーム、総勢52名もの学生ボランティアが集まり、ネパールで家を建てる活動にあたりました。そこで、ネパールGVの第一陣として渡航を果たした早稲田大学「WHABITAT」に所属するリーダー齊藤拓巳さんに、GVリーダーとしてネパールGVにメンバーを率いて参加した思いについてお話を伺いました。
- リーダーとしてGVに参加した動機を教えてください。
私は、昨年フィリピンでのGVに参加しました。それは、私にとって初めての海外でもあり、初めてのGVでした。そして、GVに参加したことで、東京で過ごす日常の中では見えてこない、世界の貧困問題に触れることができました。また、GVへの参加を通じて、フィリピンに住む若者との交流を持つ機会を得ることができ、現地の若者が抱く野望を耳にすることができました。
ここで少しフィリピンの話をさせてください。フィリピン渡航前から、現地についてチームで調べを進めましたが、実際に現地に赴き見る景色と想像とのギャップに到着早々に驚かされました。自分が想像していた以上の貧困格差が広がっており、中心地であるマニラと貧困層と呼ばれる方々が多くいる地域との物理的距離の近さに不思議な感覚を覚えました。ワークサイトでは、貧困に直面する環境の中でも、私たちを含めて、人と人とのつながりを大切にされ、希望に溢れた未来を描く人々の姿を目にしました。GVに参加する前は、自分たちが現地の人の力になれるのか、そんな疑問を抱いていましたが、「家」を建て、現地の方と人としてのつながりを築く中で、小さなことでも誰かのためになっているということを実感することができるようになりました。そして、「家」は単なる住む場所だけでなく、生活そして未来を支える重要な要素の一つだと感じました。こうしたフィリピンでの経験から、もう一度GVに参加したいという想いを抱き、リーダーに挑戦することを決めました。
- 現地の大学生との交流で刺激を受けたこと、学んだことはありましたか?
フィリピンにも、私たちと同じようにハビタットの学生団体として活動するキャパスチャプターがあるということで、現地の大学生と交流する機会を持つことができました。拙い英語でしたが、一生懸命に彼らとのコミュニケーションを図る中で、そこで覚えた衝撃は今もなお忘れられません。私たちと年齢の変わらない学生たちがフィリピンという国の将来を見つめ、本気で国を良くしていこうとする姿、今の在り方を批判し、行動に移そうとする力に溢れた姿、どの姿にも圧倒されました。現地の若者が本気で国をよくしようとする中で、日本の大学生がGVに参加する意義を自分の中で明確にしたいという思いも芽生え、こうした思いがGVへのチャレンジを後押ししました。
- なぜネパールでの活動を希望しましたか?
コロナ禍以降初のネパール派遣ということで、そこにまず大きな魅力を感じました。調べていくと、日本にいるネパール人は年々増加傾向にあり、現在約18万人もの方が日本に暮らしているそうです。こうした背景からもネパールとのつながりを感じました。そこで、ネパールについて調べ、2015年に起きたネパール大地震について学びました。この大地震では、首都カトマンズを含む広範囲に甚大な被害がもたらされ、約9,000人が死亡し、22,000人以上もの人々が負傷し、数百万の人々が住居を失うなど、国内外からの大規模な支援が必要となりました。それから10年が経った今も、特に農村部で復興の半ばにあり、いまだに多くの人が仮設住宅に暮らすなど、耐震住宅の普及に時間がかかっていることを知りました。また、災害がもたらす副次的な被害として、家をなくした子どもたちが強制労働を強いられていたり、人身売買の被害を受けるケースなどが多数発生していることを知りました。こうした背景から、自分たちにできることは何かないだろうか、そんな想いを抱き、GVの派遣先としてネパールを希望しました。
- ネパールでお会いしたご家族について教えてください。
私たち総勢12名のチームは、ネパールの東部、コシ州モラン郡を訪れました。現地で私たちが住居建築をお手伝いしたのは、ホームオーナー(家の所有者)となるお母さん(60歳)と息子さん(24歳)のお二人で暮らす一家です。お二人が暮らしている家は雨漏りが酷く、建て替えを必要としていました。しかし、幼少期から背骨に問題を抱えていた息子さんは教育を十分に受ける機会がなかったため、一家の稼ぎ手ではありますが職が限られ、家計は毎日の生活で一杯一杯だったそうです。こうした背景から、ハビタットの支援対象世帯としてコミュニティの住民から一家が選出されました。ハビタットのパートナーとなった家族は、建築活動に主体的に参加することで、住居建築に掛かる費用の一部が免除されるなど、安心して、安全に暮らせる家を持つ機会を持つことができました。ご家族にお会いした初日は、異国から来た私たちを警戒される様子が伝わってきましたが、毎日共に汗を流して建築活動にあたることで、言語の壁はあるものの、日に日にコミュニケーションが増え、自然と私たちチームとご家族の間に絆が芽生えていきました。
- 住居建築ではどのような活動に携わりましたか?
ネパール大地震以降、現地では持続性の高い住居建築技術の需要が急速に高まったそうです。その一つが、今回私たちが携わった竹を活用した建築様式です。ハビタットは東部地域で竹材を用いた耐久性の高い住居建築支援に取り組んでいます。5日間の建築活動でしたが、まず資材となる竹をお掃除することからはじまり、家の骨格となるワイヤーを固定する作業、石を敷き詰めて床を作る作業、竹で編んだ壁にくぎを打つ作業、また、セメントを作り、竹壁に塗る作業など様々な作業工程に携わらせていただきました。また、活動の合間にはご家族へのインタビューをはじめ、コミュニティ内を散策し地域の方々からお話を伺う機会を得たほか、ハビタットがかつて支援した地域を訪問し、ホームオーナーとなった家族からお話を伺うなど、そこに暮らす方々が抱える住宅問題への理解を深め、家を持つことでホームオーナー家族が抱く未来への希望について触れることが出来る時間となりました。
- ネパールGVを振り返り、良かった点はどこですか?
ネパールという国を存分に肌で感じることができました。ネパールの人々には、「サンガティ(Sanghati)」という助け合いの文化が根付いており、家族や地域のコミュニティを大切にする価値観があり、温厚で人を助けたいという国民性を感じました。地元のタクシー運転手、ホテルのフロントの方、道ゆく人々との出会い全てが鮮明に記憶に残っています。値引き交渉、現地での食、日本では経験できない多くのことを経験し、貴重な時間を過ごすことができました。ワークサイトでは、ウェルカムセレモニーやフェアウェルの壮大さ、現地の人々の暖かさに心打たれました。私たちが携わった家のホームオーナーさんから、「今の夢は家を完成させることです」という声を聞いた時、また、活動期間中にハビタットが支援したコミュニティを訪れ、新しくなった家で、新しい生活を築いている人々の眩しい姿を見た時、参加してよかったと強く思いました。私たちは家を建てる段階にしか携わることはできませんが、家を建てた後を垣間見ることができ、住まいの支援は、家だけでなく、コミュニティ、希望を築く可能性を秘めていることを実感できました。
また、ネパールに根強く残っているカースト制度の実態について、現地の方々から直接話を聞くことができました。カースト制度は法律で廃止され、実質なくなったものだと考えていましたが、カースト制度による人々の差別が今もなお想像以上に残されていることに衝撃を受けました。カーストによって就ける職業がほとんど決められていることも知りました。ただ参加するだけでなく、リーダーとして現地でアンテナを張って過ごすことで見えてくるものがたくさんあり、本当に参加してよかったと思えました。
- ネパールGVに参加して得たことは何ですか?
今回の派遣を通じて出会ったホームオーナーさんは、決して裕福ではなく、生活環境も厳しいものでした。「恵まれている」とは一体何なのか。私たちは時として、自分の価値観や物差しだけで物事の良し悪しを判断してしまいます。しかし、家族や地域の人々と助け合いながら前向きに生きる姿が非常に印象的で、人とのつながりを大切にする生き方を体現していました。その姿を目の当たりにし、日本で暮らす自分の考え方に足りないものがいくつも見えてくるような感覚を覚えました。日本では「大きな夢を持つこと」は良いこととされています。夢とは、広い世界を知り、憧れや目標を抱く中で生まれるものです。しかし、その過程で「もっと上へ」と願うあまり、現状に満足できなくなることもあります。このGVの経験を通じて、必ずしも大きな夢を持つことが幸せにつながるわけではないということに気づかされました。そもそも、幸せとは何でしょうか。お金が十分にあり、欲しいものを手に入れ、家庭を築くこと。これが私にとっての「一般的な幸せ」だと考えていました。ですが、その考えは根本から間違っていました。幸せの形は人それぞれ異なります。それを身をもって実感したのが、ホームオーナーさんの姿でした。彼らは、自分たちの住む家を私たちと共に建てながら、希望に満ちた輝かしい笑顔を見せてくれました。その笑顔こそが、彼らにとっての「幸せ」の証だったのです。幸せとは何か。その問いに対する答えは一つではなく、人の数だけあるのだと、この経験を通じて強く感じました。
GVに参加する動機や参加の背景は人それぞれですが、齊藤さんが教えてくれたように、現地で「アンテナをはる」ことは、家を建てるプログラムとしてGVを終わらせるのではなく、新しい価値観や文化に触れ、視野を広めて自己成長につながるプログラムにもなる可能性を秘めています。それが、ハビタットの海外建築ボランティア「グローバル・ビレッジ」プログラムです。そして、一人ひとりの想いの先に、チームとして「家を建てる」ことが共通ゴールとして掲げられ、限られた期間で、集まったメンバー、そして現地で出会う家族、地域の人々とのチームワークが発揮されます。そこで築かれる人とのつながりは、家を建てるだけでなく、人とつながる価値を築き、あなた自身に笑顔を築く活動でもあります。あなたもぜひ、ボランティアの一人として、またチームを率いるリーダーとして、GVに参加してみませか。GVプログラムの詳細はこちらをご覧ください。