元日に発生した能登半島地震に対応したハビタットの被災者支援にご支援をお寄せくださった皆さま、またボランティアとして現場での支援活動を支えてくださった皆さまに心より感謝申し上げます。

ハビタットは、1月中旬より石川県輪島市門前町に拠点を構え、被災された方のニーズにあわせて住まいの支援を展開してまいりましたが、全ての事業が完了したため、9月中旬をもって現地の活動を終えました。スタッフ一同、これまでお寄せいただいたご支援に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 


能登半島地震被災者支援:9ヵ月の振り返り

家族や友人と新しい年を迎えた団欒の中で発生した能登半島地震。門前町は石川県能登半島北西部に位置しており、輪島市の総人口約2万3千人のうち約2割にあたる約4,600人が暮らす地域です。そのうち高齢者が65%を占めており、高齢化が進む過疎地域でもあります。元々曹洞宗の本山があった地域であることから、「禅の里」とも呼ばれ、古い家屋が多く立ち並んでいます。そのため、震度7の揺れを観測した門前町を含む輪島市は、全家屋戸数の半数以上が半壊以上など、甚大な家屋被害を受けました。

ハビタット・ジャパンが初動調査を決定し、現地にスタッフを派遣したのは震災から12日後です。被災地のニーズ調査とあわせ、被災地NGO協働センター(本部:神戸市)から預かった支援物資を届けるために、石川県輪島市門前町を訪れました。金沢市街から能登半島に続く道路は、陥没や土砂崩れによって寸断されるなど、移動に困難を極めました。なんとか門前町に到着し、町の中心にある興禅寺に支援物資を届けた頃には雪が降り積もり始めました。その日は門前町に留まることを決め、避難所や設置された災害対策本部を訪問して被害状況を調査し、同日に支援に入った他団体による避難所での炊き出しをお手伝いしました。お食事を提供すると、「震災以来、初めて温かいご飯を食べました」と被災者のひとりが教えてくれました。輪島市と門前町をつなぐ道路が限られたことで、人的また物質的な支援のニーズが高いことが分かりました。翌日は輪島市中心部や七尾市など、他の地域を調査した上で、ハビタットとして門前町での支援を決定しました。その上で重要になることが、スタッフの拠点確保です。幸いにも、興禅寺の住職である市堀玉宗(ぎょくしゅう)さんのご厚意により、お寺の一部を間借りすることができました。「門前町のために支援してくれるなら、使ってください」と話してくださる市堀さんの想いを背に、被災された方が安心、安全な生活を取り戻せるよう、住まいの支援を展開していきました。

▶いのちを守る支援(1月中旬―2月中旬)

被災者の方の中には、避難所で冷たい床に段ボールを広げ、その上に毛布を重ねて寝床とされている姿が見受けられました。避難開始から2週間弱が経っていましたが、自宅に帰ることができない方にとっては、避難所は一時的でも体を休め、明日に向かう活力を養う場所になります。各避難所をまわり床に敷くマットの支援ニーズを拾い上げ、被災地NGO協働センターと連携することで、計236枚のマットを避難者に届けることができました。また、2月中旬までの緊急期は、理学療法士の資格を持つハビタットの災害支援スタッフが各避難所をまわり、ご高齢の方を中心に健康体操を実施しました。「震災前までは毎日体操していたのよ、嬉しいわ」と話してくださる方や、お布団の上に座りながらも上半身を起こし体操に積極的に参加くださる方がいるなど、発災以来変わらぬ日常の中で体を動かすことを喜んでくださる姿が見受けられました。ハビタットでは、こうした健康体操を2月中旬まで計30回実施し、延べ130名近くの方が参加くださいました。また、健康体操を行う中で住民の方々とお話する機会を持ち、避難生活を送るうえで足りない下着や衣類などのニーズを把握しながら、各避難所に支援物資を届ける活動を続けました。また、行政による被災家屋の応急修理支援制度の情報がご高齢の方を中心に行き届いていないことから、各避難所でチラシを配るなど、細やかな支援情報の提供にも取り組みました。

▶生活再建に向けた支援(2月中旬―7月)

1月は、多くの方が避難所に留まる様子が見られましたが、2月に入ると避難所から自宅に戻る方の姿が徐々に増えていきました。ハビタットでは、災害ゴミの回収開始とあわせて、2月中旬頃より家屋の片付け支援を含めた生活再建に向けた支援へと活動を展開させてきました。2月中旬から開始した家屋の片付けには、計32世帯から相談をお寄せいただきました。災害ゴミとして搬出する家財の運搬をはじめ、屋根から落ちた瓦の片付け、またお仏壇を起こすお手伝いや、再び起こるかもしれない地震に備えて家具の配置換えなど、2月下旬からはボランティアを動員してお手伝いに取り組みました。こうした家屋の片付けに加え、2月末からは生活再建に向けた被災家屋の建築士相談事業を、石川県の有志の建築士ボランティア団体である建築プロンティアネットとの協働で始めました。自分たちが住んでいる家に住み続けることができるのか、または解体すべきなのか、その選択に悩む住民の方たちが、建築士の方に直接相談する機会を設けることで、家屋再建に向けた選択肢が広く持てるよう目指した取り組みです。被災家屋に建築士が直接訪問し、家屋の現地調査を行い被害の度合いを確認し、危険度をはじめ修繕可能かどうかアドバイスするこの取り組みは人づてに広がり、7月末までに76世帯から相談が寄せられ、家屋相談を実施することができました。相談結果を受けて「解体するしかないと思っていたけれども、時間をかけて修繕することに決めました」と話してくださる方がいる一方で、「先祖代々続く家を守りたかったけれども、解体する決心がつきました」と一瞬寂しそうな表情を見せつつも穏やかに話してくださる方など、家屋被害の程度を公的に証明する「罹災証明書」だけでは決めきれない生活再建の後押しに相談事業が役立っていたようでした。

▶今ある住まいを改善する支援(3月―9月)

こうした事業と並行して実施したのが、組手什(くでじゅう:地域の間伐材を使用し、釘やねじを一切使わずに、はめ込むだけで組み立てることができる木材)による避難所、そして仮設住宅団地での棚作りを通じた環境改善事業です。公益社団法人 国土緑化推進機構が実施する「緑の募金」を通じて、避難所の環境整備を目的に組手什の木材が各被災地に寄贈されました。3月、門前総合支所から一任を受け、ハビタットは門前町の各避難所で組手什のニーズを調査し、約500名近くの方が避難する合計10箇所の避難所でワークショップ形式による組手什による棚作りを実施しました。ワークショップには、避難所を運営される方や避難されている住民の方が毎回たくさん集まり、県内外から駆け付けたボランティアのサポートのもと棚作りが行われました。ある避難所では、支援物資を置く棚が必要とされ、別の場所で避難所内でのプライベート空間を確保するための間仕切り棚が必要とされるなど、和気あいあいとした雰囲気の中で、それぞれの避難所が抱えるニーズにあわせて収納棚や靴箱、物資棚が作られました。

一方、仮設住宅団地への入居が始まる中で聞こえてきたのが居室内の収納問題です。家電製品などは寄贈されているものの、限られたスペースを有効活用するために欠かせない収納棚が設置されていませんでした。被災した自宅にある下駄箱や収納棚は仮設住宅のスペースに合わないことがほとんです。そこで、皆さまからお寄せいただいたご寄付をもとに、ハビタットは3月末から順次開設された仮設住宅団地で組手什による棚作りワークショップを展開していきました。こうしたハビタットの取り組みを受け、「緑の募金」が追加で仮設住宅団地に向けて組手什を寄贈くださったこともあり、ハビタットは門前町に建設されたほぼ全ての仮設住宅団地で組手什による棚作りワークショップを実現しました。組手什で玄関周りの靴箱を製作したり、キッチン周りの収納棚、またトイレや洗濯機の収納スペースなど、それぞれの世帯が置かれた居住環境に合わせて、必要な棚作りに取り組むことができました。また、全仮設住宅団地の集会所でも、集会所として活用する中で必要となる下駄箱や収納棚を製作し、提供することができました。門前町で最後に建設された仮設住宅団地では、住民さんの方が「仮設に入ってから住民同士で顔を合わす機会がなかったから、ありがとう。楽しかったよ」と感謝の言葉を寄せてくださいました。組手什による棚作りは、居住空間を改善するだけでなく、仮設住宅団地という、新たにできたコミュニティの住民をつなぐ機会にもなっていました。


緊急支援の立ち上げから9ヵ月、復興までの時間を考えると短い期間ですが、緊急期から生活再建を図るうえで欠かせない仮設住宅が開設される生活再建期まで、被災者の方々に寄り添い、さまざまな支援を展開できたのは、皆さまのご支援と活動を支えてくださった延べ200名近くのボランティアの皆さんによるお支えがあってこそです。特に、ハビタットのキャンパスチャプターとして金沢大学を拠点に活動する「金大ハビタット」の皆さんには、心から感謝申し上げます。震災以来住まいの支援に賛同する金大ハビタットからは、延べ100名近くの学生が活動に参加くださり、中には門前町でのボランティア活動は5回目、6回目という学生もいるほどでした。ハビタットの事業は終了となりましたが、今後も継続的に門前町の復興を支える「金大ハビタット」の活動を見守ることで、門前町の復興に寄り添って参ります。

※事業終了後に門前町をはじめ、能登半島が洪水被害に見舞われました。門前町の一部地域でも浸水被害が発生しています。洪水被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。