ハビタットは誰もが安心、安全に暮らせる住まいを持てるよう、居住環境の改善を目指した清掃・片付け支援と新しい住まいにつなぐ入居支援を二つの柱に、国内居住支援「プロジェクトホームワークス」に取り組んでいます。入居支援では、東京都の指定を受けた居住支援法人として、ハビタットは単身高齢者世帯をはじめ、低所得者世帯やひとり親世帯、障がいをお持ちの世帯などで、住まい探しに困難を抱える方に寄り添い、物件情報の提供から内見の同行、賃貸契約のサポートをはじめ、転宅に向けた家財の購入や引っ越しをサポートし、必要に応じて見守りを継続しています。 

5月末にハビタットに支援を寄せてくださったのは50代前半の斉藤さん(仮名)です。働き盛りとなるご年齢ですが、20代の頃にあった職場での事故が原因で、今は仕事を継続することが難しくなり、生活保護を受けて後遺症の治療に専念する日々を送られています。

 斉藤さんは、ご家族の影響を受けて20代で漁師になりました。しかし、船の上で事故にあい、首と背中を痛めてしまいました。事故後は治療を受け、一度は船に戻ることができたそうですが、何年かすると再び痛みが出てくるようになり、その後遺症から40代で陸に上がることなりました。その後はフォークリフトの作業員として工場に派遣され勤務してきたそうですが、その仕事も体に堪えるようになり、次第に仕事に通えなくなったそうです。蓄えも底をつく中で、自活していくためには治療に専念する必要があると考えた斉藤さんは、当時住んでいた県庁に相談に行きました。そこで、幸いにもとても親身なソーシャルワーカーが相談に乗ってくださり、紹介を受けていた都内の病院で治療が受けられるよう、都内のソーシャルワーカーと連携して斉藤さんが東京に移り住むことをサポートしてくれました。

 家財など一切の道具を持たずに単身で東京に越してきた斉藤さんには、頼る親戚や知人はいませんでした。まずは、都内に移り住むことをサポートしてくれた区で生活保護受給の手続きを済ませ、その後区の紹介を受けて、都内のドヤ街にある簡易宿泊所に移り生活を始めたのが今年の始めです。そこから病院に通い、治療に専念する一方、エアコン付きの3畳一間にテレビと布団がある部屋が斉藤さんの住まいとなりました。トイレと風呂共同の住まい、お風呂が使える時間は2時から5時と限られています。制限のある暮らしでも、一泊約2,200円程度、月にすると約6万円の宿泊費を生活保護費から捻出していました。しかし、気温が温かくなる4月頃から異変が起きました。布団の上に、ゴキブリのような小さな虫が目視できるようになったそうです。よくよく調べてみると、それはトコジラミという害虫でした。斉藤さんと虫との闘いが始まりました。殺虫剤を振りかけても、シーツを洗い、布団を干してもなかなか消えないトコジラミに頭を悩ませ、東京に移り住んで半年を迎える頃、担当のケースワーカーにアパートへの転宅を相談したそうです。そこで、ようやく転宅が認められ、ハビタットにご本人から相談が寄せられました。

 「一人で住まいを探すのには不安がありました」そう当時を振り返る斉藤さん、転宅許可が下りたものの心細かったと話します。地方にいる友人から「居住支援法人」の活動を知り、都内にある法人に片っ端から電話をかけたそうです。65歳未満を支援対象とする法人は多くありませんでしたが、粘り強く電話をかけ続けた甲斐もあり、最終的にハビタットの入居支援につながりました。斉藤さんから電話相談を受け、後日スタッフがドヤ街の近くまで伺い、直接お話を伺いました。斉藤さんの腕や手には、トコジラミに刺された無数の跡が赤身を帯びて皮膚に残っていました。相談を受けて、斉藤さんと共に不動産店を訪問し、物件の内見に同行するなど入居をサポートしてきました。斉藤さんご自身でも情報収集力と行動力があるため、住まい探しは比較的スムーズに運び、短期間で新しい住まいを見つけることができ、ハビタットで生活を始めるための家財購入をお手伝いし、7月の上旬には無事に転宅を完了することができました。

 先日、通院の帰り道に斉藤さんがハビタットのオフィスに立ち寄ってくださいました。新しい住まいでの生活について話が及ぶと、「これからどうやって生活していこうかと不安になるよ」、と今も不安を抱えている胸の内を明かしてくれました。生活保護の受給を開始してからの初めてのアパート暮らしです。限られた保護費の中で、家賃だけでなく光熱費、食費を賄えるのか不安があると話します。その一方、今後のことに話が及ぶと、「来月と12月に新しい治療を受けることが決まっているんです。その治療の様子をみて、アルバイトができそうなら働く先を探していこうと思います。やっぱり、生活保護を抜け出して、自立した生活を送れることが理想です」とこれからの展望を語ってくれました。まずは治療に専念していただき、生活に困ったことがあればハビタットをはじめ、相談できる支援団体があることを斉藤さんに伝え、この日は別れました。ハビタットでは、引き続き斉藤さんの見守りを継続すると共に、一人でも多くの方が安心して暮らせる住まいを持てるようハビタットによるサポートを必要とする方への入居支援を続けてまいります。