「あ~気持ちいいなあ」と、真新しい布団に嬉しそうに横になっていたのは、ハビタットで居室内の片付け・清掃支援をお手伝いした近藤さん(仮名・80代)です。近藤さんは人が家に来ることや支援を受けることに拒否的な様子は全くないのですが、居室内の環境を改善するという点については、当初、あまりご自身で必要性を感じていないようでした。

近藤さんは元々長く路上生活をしていたそうです。そのためなのか、生活習慣に課題があり、キッチンの排水溝掃除ができておらず詰まらせてしまうことや、食後のお皿やゴミを床に並べてしまうことがありました。モノを多く持っているわけではありませんが、そうした生活から徐々に部屋の環境が悪化していました。高齢者相談センターの相談員さんが関わるようになってからは、排水溝から残飯をとること、部屋を片付けること、部屋の鍵をしめることなどを丁寧に教わったため、一時はご自身で改善している様子がみられました。しかし、しばらくするとまた元の状態に戻ってしまいます。そこで、ヘルパーサービスによる家事援助サービスを利用し、生活環境を維持することになりました。サービスを利用するには、まずは部屋の片づけが必要です。そこで、ハビタットに清掃・片付け支援の相談がありました。

相談員さんと近藤さんのお宅を訪問すると、はじめのうちは「片付けは自分でやるからいいよ。布団もごみ箱も必要ないよ」と明るく話す近藤さんでしたが、最終的にはヘルパーサービスの利用開始とハビタットによる片付けを了承してくれました。そして、近藤さんとお話する中で、部屋の隅に積まれた木材(かつては自作した棚だったとのこと)をのこぎりで切り、燃えるゴミとして処分するのを手伝ってほしいなどの要望が出てくるなど、片付けに前向きになる様子がみられました。

片付け当日は、2名のボランティアと共に訪問しました。ボランティアさんが機敏に動き、ひとつずつご本人に確認しながら片付けを進めていくと、あっという間に床がきれいになっていきます。その様子を見た近藤さんは、「こんなきれいになっちゃうと、人の家に来たみたいで落ち着かねえや」と、いつもの調子で笑いながら明るく話します。部屋のモノが片付き、モノが減っていくことで不安を感じる方もいるため、近藤さんの様子を見ながら片付けを進めると、活動を終える頃には、「きれいになったなあ」と部屋の中を確認するように見て回り、饒舌に感想を述べる近藤さんがいました。ボランティアが帰る際には玄関先まで見送りに来てくださるなど、近藤さんの嬉しさが伝わってきました。

そうして1度目の片付けは和やかに終わりましたが、2度目の予定を調整するため近藤さんのお宅を訪問すると、以前よりはモノは少ないものの、床にごみが置かれている状態でした。ヘルパーサービスはすぐに利用を開始できるわけではないので、利用開始までの間に部屋が元に戻ってしまわないか心配があります。やり方を伝えればご自身で片付けようとする姿も見られた近藤さんなので、相談員さんからの強い希望も受け、ハビタットからごみ箱とほうきの提供、また破れた布団の交換を近藤さんに提案してみました。返事はいつものように「必要ないよ」とのことでしたが、話していくうちに、ゴミ箱とほうきは受け取ってくれることになりました。しかし布団についてはなかなか「うん」と言ってくれず、遠慮があるのか、「もう先がないんだから、そんなのもったいないよ」と、この日もいつものように笑って返されてしまいました。今の布団を処分するのに抵抗があるのではとの相談員さんの助言から、最終的には古い布団も取っておくことで納得され、新しい布団も無事に提供できることになりました。2度目の片付け当日、「机の上はやらなくていいよ」「古い布団は自分のタイミングで捨てるから置いておいて」などと、ご自身の希望をしっかり伝えてくれながら片付けが進みました。当初要望のあった木材も処分できる状態になり、心配していた新しい布団も、喜んで受け取ってもらえました。

  • Before

  • After

  • 不要な木材を処分

2度の片付けを終えた近藤さんのお部屋は、雑多なものと新しいものが混在はしていますが、ご本人にとっての居心地の良さが残された安心して暮らせる住まいとなりました。今後はヘルパーさんの力に頼りながら、ご自身でも少しずつ住環境を整える生活習慣が身についていけることと思います。