1月、大磯にある児童養護施設「エリザベス・サンダース・ホーム」で「やぐら式個室」のセルフビルドに向けた修繕が始まりました。この施設は、現在、2歳から18歳までの70人以上の子どもたちが生活している、神奈川県でも大規模な児童養護施設です。敷地内には、4つの男子寮と3つの女子寮の他に、一時預かりやコロナ感染がわかった子どもの一時的な住まいとなる部屋もあります。

その中でも3つの男子寮は同じ建物にあり、特に老朽化が進んでいます。築40年が経つ中で、これまでに大規模な修繕は行われてきませんでした。活発な年代の子ども達が暮らす各寮には、壁に穴が空いていたり、経年劣化により壁や床が削れていたりするなど、修繕箇所が目立っていました。それだけでなく、この男子寮には個室がなく、中学生・高校生の子どもの入所ニーズが高まる中で、プライベートな空間を確保することに苦心していました。これまでは、パーテーションを使いフロアを仕切ることで対応していましたが、時に距離感の近さゆえに子ども同士の喧嘩の火種となることがありました。また、パーテーションの一部が破損し、傾くなど、利用し続けるには安全面で不安を抱えていた上に、コロナ感染予防の対策としては不十分な環境でした。

そうした施設が抱える実情を受け、昨年3月より、ハビタットは修繕に向けたファンドレイズを進め、実施の目途が立った秋ごろには建築士と施設職員を交えて子ども達の居室デザインについて打ち合わせを重ねてきました。そして遂に、男子寮の一つ、「朝凪寮」の修繕計画と居室の設計が完成しました。

男子寮に壁で仕切られた子ども達の居室を作るには大きなハードルがありました。一つの大空間に子ども達一人ひとりの居室を作るためには、建築基準法に沿って採光をはじめ、換気や防火対策などを講じる必要がありました。そこで、建築基準法を満たす中で子ども達一人ひとりのプライバシーが確保できる居室デザインを設計するために打ち合わせが重ねられ、完成したデザインが「やぐら式個室」です。

「やぐら式個室」は、やぐらを組み立てる形式に由来しています。男子寮の大空間に全8個の組み立て式個室を作り、各個室は同様のパーツを使って組み立てることができます。各個室の上部は採光、そして建築基準法を満たすために開放していますが、それぞれの部屋には引き戸が設けられ、四方が木の板で完全にふさがれ、壁には各居室の断熱性を高めるために寄贈いただいた断熱材を施工します。また、これまで天井の電球のみが各居室の灯りでしたが、それぞれの居室に照明を設置することで、必要な時に灯りを点けられるデザインです。この「やぐら式個室」はハビタットにとっても施設にとっても初めての取り組みです。「やぐら式個室」の安全面また組み立て方法を確認するために、昨年12月には、建築士と大工さん、またボランティア学生を交えて強度テストを実施しました。「やぐら式個室」の利点は、建築基準法を満たしたプライベート居室を作ることができるだけではなく、セルフビルドで組み立てることができる構造です。パーツを組み合わせることで完成するやぐら形式のため、万が一に壁の一部が破損してしまっても、施設スタッフでもその一部のみ壁の貼り替えが行えるように設計されています。

そのために、1月、まずは男子寮の床の貼り替が始まりました。古くなった床を全て剥がし、床材を新しくするほか、新たに生まれ変わる寮のデザインに併せて電気配線を整える工事が進んでいます。また、ベランダに繋がるサッシを新しいものに交換しました。古いサッシは潮風の影響を受け、開閉するには大人の力が必要でした。サッシと枠を交換したことで、これからは子どもたちが職員の方の洗濯物を干すお手伝いもしやすくなります。

施設の職員の方は、「今までは、学校から帰ってきて、ほっと一息ついて安心できるようなプライベートな空間がなかったんです。特に中学生や高校生で入所してきた子どもたちが寮での集団生活に慣れることはとても大変なことで、同じ寮に暮らす子どもたちの間でのトラブルも起こっていました。今は、毎日変わっていく寮を見て、子どもたちも職員も、完成をとても楽しみにしています。」と話してくださいました。

施設の皆さんが楽しみにしている完成は、今年3月末の予定です。4月から迎える新年度には、新しくなった男子寮で子どもたちが生活を送れるよう、「朝凪寮」の改修、そしてボランティアの協力を得ながらセルフビルドで子ども達の居室作りに取り組んで参ります。