6月よりお部屋探しを続けていた武田さん(仮名70代)は、内見の帰り道に決まっていつも口癖のように「でもあそこが終の棲家と思うと嫌だなあ、、、」とつぶやいていました。高齢であるがゆえに、人生の最後まで住み続けられる住まいを見つけたいという強い思いと物件へのこだわりがあり、住みたいと思える部屋がなかなか見つかりませんでした。内見を重ねる中で、住まい探しをサポートするスタッフの心の中にも「武田さんが納得する住まいはいったいどんな住まいだろう。本当に見つかるんだろうか、、、」と不安を抱くようになりましたが、住まいが見つかるまでの2ヵ月間、武田さんの気持ちに耳を傾けながら住まい探しを続けました。

毎日早朝から夜まで外出している武田さんは、とても活動的です。これまで長い間ネットカフェや安いビジネスホテルなどを転々としながら生活してこられたそうですが、高齢になってきたことを機にアパートでの暮らしを考え始めたそうです。そこで、生活基盤を整えるために、生活困窮者支援団体のシェルターに一時的に身を寄せながら住まいを探すことになり、団体の紹介を経てハビタットとのアパート探しが始まりました。物件探しを始めた当初に武田さんが提示した条件は「よく使う決まった路線の駅から徒歩10分以内であること」という1点だけでした。しかし、高齢であることに加え、緊急連絡先として登録できる身内の方がいないため、紹介された物件はわずかです。幹線道路沿いで歩道橋を渡る物件や、室内が暗い物件、また、駅までの距離が遠い物件などで生活に不便なため、住まい探しはその後も続きました。そして、ようやく希望条件に近い物件が見つかりました。しかし、武田さんの反応は予想に反し、悩んだ表情で「あそこが終の棲家だと思うと悲しいな、、、」とつぶやくのです。話を伺うと「押入れが無いから布団を仕舞えない」「(入居者に)若者の出入りが多くて騒音が気になる」など教えてくれました。内見を重ねる中で、物件への希望条件が少しずつ増えていっている様子が見られ、同行した不動産店さんからも「物件探しは長期戦になるかもしれませんね」との言葉がありました。「物件を決めるのは結婚と同じだね。ピンとくるものがなければ決められないよ」と武田さんは話します。

その後粘り強く物件を探してくださった不動産店さんの協力もあり、条件に見合う物件が見つかりました。しかし、今度は大家さんによる入居審査に通ることができませんでした。その時はひどく落ち込んだりもしていましたが、10軒目の内見で再び「ここに住みたい」と思える物件に出会うことができました。しかし、新しい住まいへの引っ越しが迫ると、「結局今の(シェルターでの)生活に慣れちゃったからな、、、」と浮かない表情で話す武田さんがいました。その日は、武田さんを連れて中古家具店に向かいましたが、結局武田さんは何一つ家財を買うことができませんでした。

「住めば都」という言葉があるように、武田さんの表情が変わったのは引っ越しを終えた後のことです。9月に新しい住まいへ引っ越すと、まずは机、次にカーテン、椅子など、必要な家財をひとつずつ揃えていった武田さん、私たちが訪問するたびに、新しく買い足した家財を嬉しそうに見せてくれました。そして、お住まいの良い点を色々と話し始めるなど、これまで見せてきた不安な表情が嘘の様です。

その様子をみたスタッフは、「いいお家に引っ越せてよかったですね」とお伝えし、同時に、武田さんとの物件探しの日々を思い返したそうです。生活環境が変わることに強い不安を抱いた武田さんにとって、新しい住まいがどんな部屋かということはもちろん大切ですが、それと同じくらい、新しい住まいに移るために納得できる時間が大事だったのかもしれません。お部屋探しにかけた長い時間は、武田さんが納得し決断するまでに必要な時間のようでした。

  • お風呂とトイレも完備

  • 非常用トイレや保存水をはじめ、救急セットを含んだ緊急キットを提供

  • 箪笥の転倒防止器具

「室内の家具が地震で倒れそうだよ」と話す武田さんに、ハビタットから家具の転倒防止器具を提供し、入居後に設置をお手伝いしました。ハビタットによる住まい探しのお手伝いがひと段落したという日の帰り際、「また来ますね」とスタッフが伝えると、「その言葉を待ってましたよ」と笑顔で答える武田さんがいました。ハビタットは、誰もが安心・安全に暮らせる住まいを持てるよう、高齢であることや障がいを持つことでお一人では困難な住まい探しをお手伝いしています。詳しくはこちらをご覧ください。