ウクライナの人道危機が発生してから間もなく半年が過ぎようとしています。ハビタットでは、2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻の開始直後から、隣国の国境に開設された避難民のための避難所に物資提供をはじめたほか、移動を続ける避難民に緊急必需品キットを配布しました。また、住まいを専門とする国際NGOとして、近隣国で避難民の方のための短期滞在場所の確保をはじめ、利用できる住宅戸数を増やすための改修に取り組んでいます。また、避難民の長期的な住宅ニーズにこたえるため、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアの各国政府に対してシェルターアドバイザーを務めるほか、様々な団体と連携、協働し、避難民の方が安心、安全に暮らせる住まいの確保に取り組んでいます。

ポーランドで住まいを見つけたウクライナ中部の都市チェルカッスイ出身のヤナさん一家は、ハビタットが住宅を支援したご家族の一つです。ヤナさん家族のインタビュー記事をご覧ください。


サイレンが鳴ると、3歳のマーサは母親と祖母のもとに駆け寄り、防空壕に逃げ込むために服を着て靴を履くのを手伝うよう頼みました。でも、もうその必要はありません。一家はポーランドのワルシャワで暮らしています。

数カ月前を振り返ると、ヤナさん(写真中央)とその娘マーサさん、そして祖母のリリさんにとって、夜明け前に近所の工場に逃げるのは日常茶飯事のことでした。 「サイレンが鳴り止んだら、家に帰れるというルールだったんです。靴を脱いだら、またサイレンが鳴ることもありました」とリリさんは当時を振り返ります。 避難所は湿気が多く、冬はとても寒かったそうです。娘のマーサさんが自閉症と診断されたのは、ロシア軍侵攻のわずか1ヵ月半前のことでした。侵攻が始まり、身の安全に加え、マーサさんの症状が悪化し始めたこともあり、一家は避難することを決意しました。西部の都市リヴィウに避難しましたが、一家が住める場所を見つけることができず、ポーランドに向かいました。24時間バスに揺られ、国境で長いこと待たされた家族は、海外はおろか、故郷のチェルカッスイすら出たことがありませんでした。

 「今いる場所があなたの住まいなのよ」そう話すヤナさんの目からは悲しみが伺えました。ウクライナを離れてから今に至るまで、どれだけ困難な日々の連続であったのか、その表情から伝わってきました。リリさんとヤナさんは、ウクライナで奉仕活動をした際に出会ったボランティア仲間を通じて、ポーランドの家族を紹介されました。とはいえ、今の生活を手に入れるまでは奮闘する日々でした。最初の二日間はご夫婦のお宅にお邪魔し、そのあとの1週間はとある家族のお宅に住まわせてもらい、そして、ワルシャワ市内のどこかの家で1ヵ月間過ごしました。しかし、癌を患うリリさんに加え、マーサさんの自閉症が家主に理解されるず、家族を困らせたそうです。

「私たちを迎え入れてくれた女性は、マーサの病状を知りながらも、『マーサは行儀の悪い子だから、出て行ってくれ』と言いました。」

居られる場所がない、そう思い一家はウクライナに戻ることを考え始めました。しかし、たとえ些細なことでも、マーサさんは日常から逸脱することに強いストレスを感じてしまいます。ストレスを軽減するには、日々慣れ親しんだ環境で、同じような食事をとり、馴染みのある人たちと過ごすことが欠かせません。一方、リリさんの病状は末期の状態です。「ヤナの人生がうまくいけば、私は安らかに死ねるわ」、娘と孫が明るい未来を持てるよう必死に病気と闘っていることを、涙をこらえながら話してくれました。

新たなチャンス

一家がポーランドでの避難生活を諦めかけたとき、幸運が舞い降りました。ポーランドの主要駅であるワルシャワ駅でハビタットが避難民の方の住宅確保を支援するために開設したキオスク(窓口)を通じて、一家に住宅が紹介されました。幸運にもすぐに住まいを見つけることができたのです。「私たちのために、アパートを用意してくれたんです。とても驚きました」とヤナさんは当時を振り返ります。「3人で一つのベッドを使うのでも十分でしたが、ハビタットのボランティアの方たちは、鍋や食器、毛布、衛生用品まで持ってきてくださった上に、ベットのマットレスまで用意してくれました。」

アパートは狭いながらも、必要なものはすべて揃っています。「近所には小さな公園もあり、娘とよく遊んでいます」とヤナさんは言います。「ハビタットのボランティアのタニアとカロリナは、いつも電話で私たちの様子を気にかけ、必要なものがないか聞いてくれます」と続け、「母の治療には、自分で打つ注射があり、冷やさなければなりません。冷蔵庫の調子が悪かったのですが、すぐに新しいものに交換してくれました」と笑顔で話してくれました。


一家はいつの日かウクライナに戻ることを願っていますが、今の生活は安全が確保され、サポートが行き届いていると感じています。これは、ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ポーランドによるソーシャルレンタルハウジングプログラム(社会的賃貸住宅プログラム)を避難民向けに適用したプログラムであり、これまでにウクライナから逃れてきた1,000人以上の人々がソーシャルレンタルハウジングプログラムを通じて住まいを確保し、必要なサポートを受けています。

ウクライナ人道危機に対応するハビタットの支援統括責任者であるハニファ氏は、「ハビタットは、ルーマニアやハンガリーで避難してきた家族の住宅確保を支援しています。これまでに4,500人以上のウクライナ避難民に一時的な滞在先を提供し、1,200人以上に中長期におよび滞在できる住宅を確保、提供してきました」と述べています。

しかしながら、今もなお避難先での生活に困難を抱える方がいます。ハビタットは引き続き一人でも多くの方が避難先で安心、安全に暮らせる住まいを持てるよう、住まいの支援を通じて避難民の方々を支援して参ります。引き続き活動へのご支援をこちらよりお願いいたします。