アメリカン ・ スクール ・ イン ・ ジャパン(都内のインターナショナルスクール「American School in Japan」。以下ASIJ)は、ハビタット ・ ジャパンを長年にわたり支援しています。ASIJにある、学生主体のクラブ活動の一つであるハビタット ・ クラブは、海外建築ボランティア「グローバル ・ ビレッジ(GV: Global Village)」への参加を通じて、すべての人が安全できちんとした場所で暮らせる住まいの必要性を校内に伝え広め、家の建築支援を行うハビタットの取り組みに積極的に参加しています。
サンディ・ブロジェット先生は、ASIJで15年間スペイン語を教える傍ら、2007年からクラブに参加、その大半をアドバイザーの一人として関わってきました。これまでに400 名を超える生徒を世界8ヵ国に引率し、10 回の建築活動に参加しています。日本に来日してから 15 年を迎えたこの春、サンディ先生は、ご主人のセスさんとともに日本を離れ、新しい生活を歩み始めることになりました。誰よりも多くGVを経験したサンディ先生に、お話を伺いました。
ハビタット ・ ジャパン:ハビタット・クラブの顧問になられたきっかけを教えてください。
サンディ先生: ASIJのハビタット ・ クラブに関わる前、ハビタットのことを伝え聞いてはいました。私がエクアドルで育ったこともあってか、団体の理念は私の心に非常に響きました。私の母は「自然から家族を守るためには、家を持つことが不可欠」と話していました。人間にとっての基本的な生理的欲求のひとつである「睡眠」には安心、安全に過ごすことができる住まいは欠かせません。住まいがあってこそ、体を休めて活力を養い、教育に専念して、安定した職業に就くことができ、それが、社会全体の幸福と繁栄につながる扉だと考えています。私がASIJで勤務を始めた当初、別のクラブ活動の面倒をみてもらえないかと頼まれていましたが、働き始めて2年目、ハビタット ・ クラブの顧問を探している話を聞き、私はすぐその話に飛びつきました。そして、ケニアのハビタットで、数多くの活動経験を有していたデイビッド・ノリス先生とともに活動を開始したのです。
ハビタット ・ ジャパン:GVに参加する前、GVチームによるファンドレイジングの取り組みはありましたか?
サンディ先生: ASIJのクラブにとって、資金調達は常に優先事項の一つでした。目標は旅行にかかるコストを埋め合わせることです。1年目は、ある生徒の保護者の方にシナモンツイストのパン40個を焼いていただき、生徒たちもそれを作って、学園祭で販売しました。翌年、その家族は米国へ帰国したため、私とデイビッド先生は自分たちでパン作りをすることにしました。おかげで、私たちはパン作りの技術、大量生産をする際の物流管理に加え、資金調達の活動当日、活動にあたる生徒たち50人以上のまとめ方など、学びに満ちた興味深い数年間を過ごすことができました。
ハビタット ・ ジャパン:GVに生徒たちが参加する意義やその影響はどのようなものでしたか?
サンディ先生: 海外でGVに参加することは、ASIJの生徒たちにとって、慣れ親しんでいる環境以外の場所で、優しさや寛容さ、そして幸福感を体感できる機会です。生徒たちは、GVを通じて出会う家族と交流し、村の子どもたちと一緒に遊び、家の建築活動を手伝います。村に暮らす家族や子どもたちは、わずかしかないモノをいつも私たちに分けようとしてくれます。生徒たちが日ごろから馴染んでいるスポーツやゲームを村の人たちと一緒に楽しむことで、生徒は誰もがみな同じ人間であり、同じように必要なものや希望、夢、欲求を持っているということを実感することができます。こうした経験は、より共感的で、寛容で、他者に対する思いやりの心を持った生徒を育てることにつながり、これらの経験を得た生徒たちは、いつの日か、この世界をより良いものにするでしょう。
ハビタット ・ ジャパン:生徒たちを引率してGVに参加する中で、最も困難なことは何ですか?
サンディ先生: 膨大な量の事務処理をはじめとして、締め切りや保護者の方々に対して行う数多くの連絡業務は大変なものでした。GVの引率で一番大変なことは何といっても、教師が全生徒の保護者役を務めることです。教師たちはみんな、一度に22-30名ものティーンエイジャーの親になるのです!ただ、それと同時に、生徒一人一人について、より個人的に接する機会にもなるため、意義深い部分でもあります。GVで生徒を海外に引率するのは重責を伴います。文化や言語に不慣れな国において、病院をはじめ、どこに何があるのかもわからないような環境で、教師たちは、1日24 時間、1週間もの間、生徒全員を預かるのですから。受入国では、選任されたGV担当者が私たちをサポートしてくれます。彼らは非常に協力的かつ友好的で、私達はいつも強力なサポートを得ることができました。しかし、教師は生徒たちの健康に対して責任があり、それが常に最大の責務であり心配事でした。毎回、渡航前になると、生徒がみんな健康で、幸せで、自分たちが行った活動に誇りをもって無事に帰国できるように、といつも祈っていました。
ハビタット ・ ジャパン:最も思い出に残るGVを教えてください。
サンディ先生: 私はこれまで8ヵ国、計10 回のGVに参加しました。そのどれもが、忘れられない貴重な思い出です。たとえば、バリ島では夫に先立たれた3人の女性と家の建築にあたりました。彼女たちは自分たちの作業分担として、セメントブロックを頭の上に乗せて現場へ運び、家づくりに参加していました。フィジーでは、午後になると子どもたちが集まってきて、私たちと一緒に作業をするのが常でした。子どもたちはとてもフレンドリーです。ある日の午後、子どもたちが、走りながら車輪を転がして遊ぼうと生徒たちを誘ってくれました。言葉ではなかなか表現できませんが、みんな一緒になって学んだり、笑ったり、遊んだり、とても楽しんでいました。スリランカに滞在した時には、ココナッツが好きだと私が言うと、その二日後、休憩時間にココナッツが用意されていました。スリランカの人たちの優しさを忘れることができません。タイでは、ホームオーナーの方たちが、私たちに昼食を作ってくれました。パパイヤサラダがおいしいとある生徒が言ったところ、翌日、それがメニューに載っていたこともありました。その時に、私が辛い物を食べられないことに気づいたあるホームオーナーの方がいました。滞在最終日、再度パパイヤサラダが食卓に並んだ際に、辛さ控えめの分も用意されていたので、私もパパイヤサラダを味わうことができました。何という心遣いでしょう!マレーシアでは、毎日違った内容の作業が、実に手際よく準備されていました。ありがたいことに、生徒たちは建築の仕上げ部分である、家のペンキ塗りを行うことができたのです! ベトナムでは、2軒の家のレンガを積んで家づくりを行いました。生徒たちはこの作業の難しさと、根気強く作業の仕方を教えてくれた熟練者の優しさに驚くばかりでした。また、カンボジアの人たちは、非常に人当たりが良く、柔軟な対応をしてくれました。建築資材が指定通りに届かなかったのですが、予定を繰り上げて、生徒たちは文化探訪の遠足を楽しみました。残りの日数、作業は順調かつ整然と進み、家の建築は予定通り無事終了しました。これまで、さまざまな旅行に参加したというある生徒は、それまでに参加した中でこの旅は最高のものの一つだった、との感想を残しました。どのGVにおいても、参加した生徒全員が無事に帰宅することができました。もしかしたら、なかには胃腸炎になった生徒がいたかもしれませんが、それもまた旅の思い出の一つです。
ハビタット ・ ジャパン:先生にとって「家」とは?
サンディ先生: 家とは、そこで暮らす人にとって安全で安心だと感じられる心の拠り所です。家族が繁栄し、子供を育て、夢や目標を達成する場所です。私にとっての「家」とは、より幸福でより健康的な生活を送るという夢を人々に与えることだと思います。
ハビタット ・ ジャパン:先生の次なる夢は何ですか?
サンディ先生: ASIJで15年間勤務した後、私は夫と共に新しい生活を始めることにしました。
私たちの家を探すために、ちょっと旅をしたいと思います。世界のどこかで、移民や亡命した人たちに奉仕できるようになる、というのも私たちの夢の一つです。将来、どんな扉が用意されているのか、二人とも楽しみにしています。
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インタビューの最後に、サンディ先生から「ハビタットの理念と共に働く機会を享受できたことは私にとって名誉です。この機会を与えてくれたことに感謝します」とのお別れのあいさつがありました。ハビタット・ジャパンは、誰もがきちんとした場所で暮らせる世界の実現を目指すハビタットの活動に対して、これまで長年にわたり、身を尽くして貢献して下さったサンディ先生に感謝いたします。サンディ先生は、世界のどこにいようと、困難な状況にある人々に支援の手を差し伸べる存在であり続けるでしょう。