「もう家を追い出されたくないから、今後はきれいな状態を保ちたいです」と話すのは3度の清掃・片付けを経て支援を完了したお一人暮らしの須田さん(仮名)です。須田さんはADHD(注意欠陥・多動症)をお持ちのため、片付けがとても苦手で、室内環境をきれいに保つことに大きな課題がありました。以前住んでいたお宅をごみ屋敷のような状態にしてしまったことから近隣トラブルとなり、引っ越しせざるを得なくなったそうです。そして、今のお住まいに越されてきてから一年、再び居室内の環境が悪化してしまい、須田さんご自身も住み続けられるか不安に感じるようになりました。
そこで、須田さんが相談を寄せたのは、以前にお部屋探しの相談をしたNPO団体でした。しかしそこでは入居後のサポートはできないとのことで、団体の紹介によりハビタットに相談が寄せられました。室内環境を確認するためにハビタットのスタッフが須田さんのお宅を訪問すると、玄関扉にまでモノがびっしりと50㎝ほど積み上がっていました。居室内へは靴を脱いで入れる状況では無かったので、本人の許可を得て、靴カバーを装着してそのまま入ることになりました。室内には大量の服やペットボトル、電気のコードや生活ゴミなどが溢れかえっていました。
お話を伺うと、片付けにあたっては、一度清掃業者に依頼したことがあったそうです。その際に、多額の請求がなされたことや、須田さんが信頼をおく福祉作業所に相談すると、「みんな自分で片付けています」と言われてしまったそうです。居室内の環境をなんとかしたいと思いつつも、頼れる場がなかったことが伺えました。こうしてハビタットでの清掃・片付け支援が決定し、支援が始まりました。
須田さんのお宅には賞味期限の切れた大量のペットボトルがありました。旅行の好きな須田さんは、買い物をするとポイントが付くことを知り、そのポイントで旅行に行きたいという思いから、いつしかポイントを貯めることが目的となって飲み物をどんどん買ってしまい、気づくと飲みきれないほどのペットボトルが部屋を占領していました。立ち止まって考えれば必要のない買い物だと気づけるように思いますが、それも障害の特性によるものであり、ご自身で気づいてコントロールすることはとても難しいことです。1回目の片付けでは部屋の半分ほどが姿を現しました。
ハビタットによる片付けを進める一方、居住環境を維持していくために須田さんを公的サービスにつなげることが必要でした。片付けるだけでは、あっという間に元に戻ってしまうことが目に見えていたからです。1回目の片付けが終わりお互いに関係が出来てきたころ、「家事援助のヘルパーサービス利用について保健所に相談してみませんか」と聞いてみると、須田さんもヘルパー利用について考えていたこと、そして、かつて保健所に相談されていたことを教えてくれました。ハビタットから保健所の担当者に連絡をとると、須田さんは障害者雇用で就労していることもあり、ヘルパーサービスの利用には自己負担金が発生するかもしれないとのことでした。それもあってか、前回は利用に至らなかったのかもしれません。しかし、ハビタットの片付けを機に、須田さんご自身が再びヘルパーの利用に向けて前向きな姿が垣間見え、須田さんご自身の「なんとかしたい」という思いが強く伝わってきました。
想像はしていましたが、2回目の活動で訪問した際には再び室内にモノが散乱し、床の見えない状況に戻っていました。ただ、一度片付けに入っているので活動は順調に進み、終了時には室内がきれいに片付きました。残すはロフトにある、引っ越されてきた当時のまま置かれた荷物の整理です。ハビタットでの片付けも終盤に近付いてきたので、3回目の活動終了に合わせてヘルパーサービスの利用が開始できるようお手伝いをしました。そうして訪れた3回目の活動では、服や生活ゴミが床に落ちてはいましたが、ご自身で綺麗な状態を保とうとされた様子が見られました。片付けのボランティアですが、「人が家に来る」ということも、須田さんが片付けようと思うきっかけにつながっている様でした。
こうしてハビタットによる3度の清掃・片付け支援は完了しました。今後はヘルパーさんが定期的に須田さん宅を訪問し、片付け方を教えてくれることになりました。頼る場がなかったと話しながらも片付けを機にご自身でも気持ちを切り替えた須田さん、福祉サービスを利用することで、安心して生活し続けられる住まいを維持していくことができそうです。