ハビタットの入居支援を通じて、先日無事に引っ越しを終えたのは70代になる田原さん(仮名)です。引っ越しの翌日田原さんにお電話をすると、「昨日はぐっすり眠れました」と明るい声で話してくれました。転居準備に忙しかった数週間は、「昨夜は少ししか眠れなかったの」「ひとりで家にいるとなぜか涙がでてね」などと、感情に不安定さが見られていた田原さんですが、新しい住まいが見つかり気持ちが一転し、安心して過ごせる生活にほっとされている様子が見られました。

田原さんがハビタットに相談を寄せたのは、ちょうど昨年の春ごろでした。お住まいのアパートは2階で、お風呂やガス給湯がないため、年齢を重ねるとともに生活に不便さを持ちはじめたといいます。田原さんは高齢で働けなくなったころから生活保護を受けていたため、引っ越しの際は担当する役所のケースワーカーから転宅の許可が必要でした。そのためハビタットスタッフがケースワーカーさんへ確認をすると、「田原さんの生活環境が悪く、転宅より前に片付けが必要である」と告げられてしまいました。そこから関係機関とのやり取りやヘルパーサービスの利用につなげる目途を立てるまでに時間を要しましたが、夏から秋にかけハビタットの清掃支援でボランティアと共に居室内の片付けをお手伝いし(活動の様子はこちら)、ようやく転宅の許可が下りたのは冬が始まる頃でした。

田原さんは一日も早い引っ越しを希望されていましたが、住まい探しは難航しました。高齢であることに加え、不動産を借りる際に登録が必要な緊急連絡先となる身内がいないこともあり、希望する地域で条件に見合う物件がなかなか見つかりません。田原さんが現在お住まいのアパートに越されて来た時は、不動産店に迷惑をかけないようにという思いから、内見は2件しか行わずに物件を決めた経験がありました。その結果として再び転居が必要になったことから、「今回はちゃんと考えて決めたいの」と田原さんは話します。部屋の広さや階層、近隣の買い物環境などに加え、譲れない条件の一つが地域でした。生活保護を受給している方の転宅の場合、一般的には保護費を支給する区内で新たな物件を探す必要があります。この条件は、今お住まいの地域に住み続けたいという田原さんの思いとは一致していましたが、田原さんが住む地域は、東京23区の中でも物件探しに特に困難を有する地域です。相談を寄せた不動産店の中には、「役所から出る家賃基準額以外に、1万円近い自己負担をしてもらわなければ物件が無いです」と話すところもあるなど、これまでさまざまな地域で物件探しをお手伝いするなかでも初めて聞いた対応でした。物価高が続き生活が困難な中、わずかな生活費から出すにはあまりに大きな金額です。それを聞いた田原さんは、怒りと哀しみを抑えきれない様子で思いを吐き出しながら、「年なんてとるもんじゃないわね」と何度もつぶやいていました。

そうした中でも、わずかながらも物件を紹介をしてくださる協力的な不動産店もあり、何度か内見に行きました。しかし、田原さんの希望する条件とは離れた物件ばかりです。申し込みを迷っている間に物件が他の方に決まってしまうこともありました。田原さんの場合、数ヵ月物件を探しても居住区内で希望する物件が全く見つかりませんでした。こうした事態を受け、最終的にはケースワーカーさんから許可を得て、他区での物件探しも併せて行えることになりました。すると今までの困難さが嘘のようにすぐに希望の物件が見つかり、その頃には田原さん自身も他区への引っ越しにすっかり気持ちを切り替えているようでした。入居審査にも通り、ようやく転居先が決まったのは2月末です。そこから引っ越しに向けた準備をお手伝いし、この3月、無事に引っ越しができたことにご本人も、そしてハビタットスタッフもほっと胸を撫でおろしました。

本来なら住み慣れた希望の地域で生活を続けられると良かったのですが、生活保護受給者でかつ高齢であるというご本人の属性に加え、希望される居住地域は特に安価な住宅ストックが少ないため、住まい探しが難航するケースとなりました。地域を変えられることに心配はありましたが、「近所をもっと出歩いてみたいから地図が欲しい」と話すなど、新しい地域で生活を楽しみ始めている様子が見られます。今あるお住まい、そして地域で田原さんが心身を休め、活力を養い、安定した生活が送れるよう、ハビタットでも引き続き田原さんの見守りを続けてまいります。