住居を我が家と呼べるまで。

執筆:稲垣花恵 (渉外・支援統括担当) 

国内の「居住」の問題に取り組もうと国内居住支援プロジェクト(PHW:Project HomeWorks プロジェクトホームワークス)が立ち上がった4月から、季節は移り変わり、早8か月が経ち、師走を迎えました。

この間、私たちは多くの人に出会いました。路上で夜を明かす人、ホームレス状態から抜け出し新しい一歩を踏み出した人、家を失くすかもしれない状態にある人、また自分の時間を惜しみなく支援のために使う人、それを応援する人たち、多くの人が支え支えられて生きている姿をたくさん見ました。それぞれどんな風に、どんな想いで新しい年を迎えるのでしょうか。様々な方の協力のもと、模索しながら支援を行ってきたこの8か月を振り替えり、2017年のまとめとしたいと思います。

 <支援のスタートと発展>

Project HomeWorksは、1.様々な事情で住居環境が悪化している人には「今ある家を守る」支援を、2.住居確保が難しい人には「新しい家につなげる」支援を行うために立ち上がりました。ひとつ目の柱である「今ある家を守る」支援は、多くのボランティアの力を借り、住居の片付けと清掃、簡単な修繕を行うことで、住環境の改善を行っています。

そして、一度支援を通じてかかわることができた方とは、定期的に顔を合わせ、その時々の様子をお聞きしたり、ただただおしゃべりをしたり、困っていることがあれば一緒にどうしたらよいか考えたり、必要によっては行政や他の支援団体につなげたりと、一度きりの清掃支援にとどまらない活動を行っています。

20174月から1216日までで、出会った方々は相談のみにとどまった方も含め17名、実際に清掃や修繕の支援を行ったのは15名となりました。また、2か所の生活困窮者のためのシェルターに対して修繕支援を行いました。

<これまでの支援対象者の状況>

総数 清掃支援個人 15名 (男性 13名、女性 2名)

年齢構成(名)

20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代
0 2 0 5 2 2 4

障がいの有無(名)

身体的障がい 精神的障がい、発達障がい(疑い含む)
2 8

住まいの状況(名)

賃貸アパート 持ち家
14 1

 生活状況(名)

生活保護受給者 一人暮らし
12 15

 ハビタットは「きちんとした住まい」の確保を支援する団体です。海外では住居を建築すること、修繕すること、土地の権利確保を支援すること、住居とは切っても切れない衛生設備(トイレ、井戸)の建設などを行っています。

日本では、全国で空き家が増えているため新しい家を建てることでの支援は効果的ではないこと、かかる費用も途上国に比べ格段に高いことといった理由から、建築するのではなく、住居の環境改善を通じた支援を行うことにしました。

どちらもハード、つまり家という建物や住む場所の支援であることには間違いありません。しかしProject HomeWorksではハードの支援にとどまらず、継続的に生活にかかわっていくソフト面での支援も行うことにしたのには理由があります。それは、住まいの環境が悪化している背景には、何らかの事情で「生きづらさ」や「孤独」を感じている人が多いからです。例えば、中野区に住む奥村さん(仮名)は、89歳の男性で、独り住まいです。ヘルパーの勧めでハビタットに連絡をくださいました。アパートを訪ねてみると、部屋はとてもきれいです。ただ、腰痛や体調の悪化から、タンスの上の埃を掃除したいが自分ではできないとのことでした。その場で掃除機と雑巾を使って掃除をすませると、色々なお話を聞かせてくださいました。昔は料亭を営んでいたこと、奥様はすでに他界していること、子どもたちは遠方に住んでいたり忙しくてなかなか会えないこと・・・。笑顔の向こうにすこし淋しさがあるような感じがしましたが、ちょっとした困りごとを頼める先ができたことで、安心感を持つことができたようでした。

奥村さんのような高齢の方や、あるいは障がいを持っていることで地域での暮らしが難しくなることを防ぎたいという思いから、Project HomeWorksではハード面・ソフト面での両方での支援活動を続けています。 

<ボランティアがかかわる意義>

ハビタットにとってボランティアはとても大きなサポーターです。 Project HomeWorks
では主に、ハード面の支援つまり清掃や片付けをボランティアが担っています。この半年間でのべ113名が活動に参加しました。担い手が集まるのは、ハビタットを支える強いボランティアネットワークがあるからです。ですが時には、「なぜボランティアがかかわるのか?」「家族や隣人に頼めばいい」「お金があれば業者に頼める」「行政のサービスもあるはず」といった声をいただくこともあります。確かにその通りかもしれません。ですが、生活環境の悪化に困り切羽詰まったとき、身近な人にSOSを出せる人ばかりではありません。家族と疎遠な人、近所付き合いのない人、もしあったとしても顔見知りに助けを求めるのは気が引ける人も多いのではないでしょうか。見知らぬボランティアだからこそSOSを出しやすい、ということも多いと思います。

また、これまでに支援を行った15名の方たちで金銭面に余裕のある方はほとんどいませんでしたが、たとえ生活に多少余裕があったとしても、家の困りごとを誰に相談したら良いか分からないという人も多いことが分かってきました。そんな時、すでにかかわりのあるケースワーカーなどから、ハビタットのボランティアによる支援活動を紹介され、それならば頼ってみようと気持ちを持ってくださった方もいました。そうして様々な支援者経由で私たちの支援につながった人たちは15名中13名にのぼりました。これらの方には相談できる様々な専門の支援者がいたことは幸いです。ですが、住まいの問題に悩んだり、悪化した住環境があたりまえになってしまい声をあげていない人たちは、まだまだ多くいると考えられます。その人たちにどのようにリーチしていくかは今後の課題です。

< ボランティアがもたらしたもの>

これまでに支援を届けることができた15名の方たちに、ボランティアのかかわりがどのように影響したか、細かく聞き取りができたわけではないので一概には言えません。ですが、いくつかのケースを紹介したいと思います。


<鈴木さん(仮名、80代 男性)>

幼いころから暮らしてきた家に独りで住んでいます。ご両親と死別してからずっと実家を守っています。ご家族と過ごしたご自宅に深い愛着を持ち、たくさんの思い出の品を大切に残しています。しかし体調の悪化に伴い、自宅を一人で片付けることが難しくなりました。ハビタットの活動について知り、自ら電話をかけてくださった4月から、ボランティアが定期的に通うようになりました。以前に大学で教鞭を取っていたせいか、学生のボランティアにとても積極的に話しかけ、自分もできる範囲でゴミをまとめるなど、普段以上に身体を動かす時間が生まれました。

 


<太田さん(仮名、30代 男性)>

生活困窮者のためのシェルターに一時滞在したのち、現在のアパートに独りで暮らしています。自分で片付けや掃除をすることに困難を抱えていて、部屋の床には日用品や衣服が散乱し、台所には期限切れの食品もあり不衛生な状態になっていました。半年間で2回、ボランティアで清掃のサポートを行いました。ご本人も、取っておくものと要らないものの仕分けを少しずつ進めるなど、自らも片付けに参加しました。作業の最中に何度か、「自分で片付けられるようになりたい」「収納の方法を一緒に考えてほしい」と話していました。


鈴木さんのように、特に高齢者にとって若いボランティアが家に来ることが良い刺激になることは、少なくないと感じています。ボランティアでの清掃支援をきっかけに、その後継続的にかかわっていければ、近隣住民やアパートの大家さんが心配するような高齢者の孤立の解消にもつながると考えています。 

太田さんのように片付けが困難という人にとっては、ボランティアでの支援が、まず何より住環境の回復そのものにつながります。単に屋根があって寝るだけの場所になってしまった家が、「我が家」と思える場所に近づく第一歩になっています。衛生的で整頓された部屋に暮らすことが自分への尊厳を回復するきっかけにもなり得るでしょう。また、太田さんのように「自分でもできるようになりたい」という思いが芽生えることもあります。

とはいえ、例えば発達障がいなどが理由で片付けることが困難な人にとっては、片付ける習慣を身につけるのは長い時間が必要です。そもそも「変わりたい」という思いがない人に無理して片付けの習慣を覚えてもらおうと思っても、余計なストレスがかかれば逆効果になることも考えられるでしょう。片付けが困難な人の住環境は、ボランティアで支援をしたあとまた悪化してしまうことも実際にあります。しかし、片付けられないことが理由でひどい住環境のまま住み続け、周囲や地域から疎外されてしまうとしたら、どこに生きる場所を見つけることができるのでしょうか。

Project HomeWorksでは、もしまたゴミやものが溜まってしまったら、何度でも手伝えば良いと考えています。それには、困っている人が二度、三度とSOSを出す勇気を持てる関係性が必要だと考えています。そしてもし「自分で片付けられるようになりたい」という思いがあれば、少しずつ本人ができることを増やしていける支援を行っていきたいと思っています。ハビタットの強いボランティアネットワークがそれを可能にするからこそ、Project HomeWorksを行うことができています。

 <新しい家につなげる支援>

今年、国による新しい住宅セーフティネット法が施行されました。これには、空き家を活用し、高齢者、低額所得者、子育て世帯、障がい者、被災者などの「住宅確保要配慮者」の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度を創設するなど、新たな住まいに関する施策が盛り込まれています。

この半年間、ホームレス状態を抜け出そうとする人たちとかかわる中で、生活保護受給、高齢といった理由で入居できる賃貸住宅が大変限られている実態を目の当たりにしてきました。また、清掃支援を行ったある高齢の方は、生活保護を利用しアパートに入居していますが、建物は老朽化し、ネズミが侵入し、窓はベニヤ板で覆われているという状態でした。とはいえ建物の所有者が建物の建て替えを決めてしまえば、その方はどこに住まいを見つけられるのか不安を覚えざるを得ません。Project HomeWorksでは、アパートの建て替えなどで現在の住まいを離れる必要のある方、ホームレス状態から抜け出そうとする方を新しい家につなげるための支援を強化していきます。今後、この身近な住まいの問題について広く啓発し、行政、不動産業者、賃貸物件オーナーなど関係者との連携を強めていきます。

  <おわりに>

Project HomeWorksにおいて、ボランティアの存在が大きな意味を持っていることはすでに述べました。お金を出して清掃業務を行うプロとは違って、すぐには対応できないこともありますしクオリティも劣ります。でもそのもどかしさが、支援する人と支援を求める人を対等にし、良いコミュニケーションを生むきっかけになっていると感じています。

今後もハビタットは、Project HomeWorksを通じて、住まいの支援が必要な人にマラソンの伴走者のように寄り添い、給水所に来ても自分では水を受け取れなかった人に、水をそっと差しだすような、そんな支援を目指していきます。そんなおせっかいな支援に、今後も多くのボランティアの皆さんにかかわっていっていただければ嬉しく思います。

 また、これまで支援を届けた15名の多くが、路上生活やホームレス状態の経験者です。それは、つくろい東京ファンドはじめ、多くの生活困窮者支援団体がハビタットの支援を応援してくださっているからです。この場を借りて、私たちと連携してくださっている関係団体の皆様に御礼申し上げます。

 また、Project HomeWorksに賛同し、活動をサポートしてくださっているキャンパスチャプターの学生、企業や団体から参加くださったボランティア、寄付者の皆様に心より感謝申し上げます。

 ハビタットは2018年も引き続き、多くの人にとって家が単なる屋根のある寝る場所ではなく、安全な場所、くつろいで身体を休める場所、我が家と呼べる場所になることを目指して、支援を届けていきます。そしてそれをきっかけに生まれたつながりが続くことで、頼れる人のいない不安や孤独感をやわらげ、地域で安心して暮らしていけるようになることを願っています。

これまでご参加くださったボランティアの皆様、ありがとうございます!

そしてこれからもますますよろしくお願いいたします。