ハビタット・ジャパンは、株式会社サンゲツおよびエステー株式会社、アスクル株式会社との協働のもと、「誰もがきちんとした場所で暮らせる世界」の実現を目指し、今年度よりベトナム国内で最も気候変動に対して影響を受けやすい地域の一つである南部、旧ロンアン省(現タイニン省)で、新たに住まいの建築支援と水と衛生設備の設置支援を行う2つの事業をスタートさせました。
※ベトナム政府は2025年7月1日付で地方行政区画の再建を行い、63省・市を、34省・市(6つの中央直轄市と28省)に再編しました。事業地となる旧ロンアン省は、タイニン省に統合されています。


気候変動により、生活基盤が脅かさせる人々

プロジェクトの事業地は、ベトナム南部に位置する旧ロンアン省です。旧ロンアン省は、約173万人が暮らすメコンデルタ地帯の玄関口です。メコンデルタ地域は低地沿岸地域に位置し、5月から10月までは雨季が続く、気候変動に対して最も影響を受けやすい地域の一つです。同地域では、気候変動による気温上昇、海面上昇、降雨パターンと河川流量の変化が起き、結果として干ばつや河川への塩水侵入、洪水、地滑りなどの被害が起きています。そして、こうした気候変動による影響を最も受けやすい脆弱な人々が貧しい人々です。旧ロンアン省には、208世帯が貧困層または貧困層に近い世帯として分類されており、多くが老朽化した、簡易な住宅に暮らしています。

住まいの課題

旧ロンアン省に暮らす貧困層の人々は、構造的に脆弱な家屋に住んでいます。壁や屋根材には、未加工の木材やヤシの葉や茅葺きなどが使われており、この地域の気候では、耐久性がなく、数年で壊れてしまう脆弱な構造の住まいです。こうした住まいでの暮らしでは、湿気やカビから家を守ることができない上に、そこに暮らす家族は、マラリアや結核、下痢、肺炎などといった病気を引き起こす健康リスクに直面しています。また、乾季には火災といった危険性を高め、家族や近隣住民に被害をもたらすリスクも高くなります。加えて、気候変動により集中豪雨や洪水などの深刻な災害が発生し、その結果、多くの家族が経済的余裕のない中、費用のかかる修繕を繰り返す必要が出てくるなど、悪循環が続いています。

水と衛生の課題

旧ロンアン省は低地沿岸地域という地理的側面から、水資源に関する多面的な課題を多く抱えいます。雨季には洪水の影響を受けやすい一方で、既存のインフラでは洪水による淡水需要に対応しきれず、水不足は深刻です。多くの世帯は、小規模な給水ステーションと地下水源に依存していますが、生活水へのアクセスが限られている上に、持続可能性のない地下水に依存しています。

また、気候変動による沿岸の海面上昇により、メコンデルタへ海水が流入し、水質の悪化を引き起こしています。人々は生活用水を地下水に頼っていますが、多量の地下水をくみ上げることにより塩水が地下水に流入するリスクが高まり、地下水の塩分濃度が高まるなど、水質の劣化は、公衆衛生、農業、そして住民の生活全般に重大なリスクをもたらしています。

サンゲツと協働:気候変動に強靭な住まいを支援

本プロジェクトでは、旧ロンアン省に暮らす3世帯に対して、気候変動に強靭な、安心できる住まいを支援することで、コミュニティのエンパワメントに繋げていくことを目指しています。

本プロジェクトの重要な構成要素は、家族の住まいとなる「家」を建てるだけでなく、家を建てるプロセスに地域住民を交えて、地域全体のエンパワメントを図ることです。建築のプロセスでは、直接的な支援を受ける家族(ホームオーナー)だけでなく、コミュニティ内の大工8名を加えることで、ハビタットは、建設技術を習得する研修の機会を広くコミュニティの人々に創出します。そして、研修の中では、ホームオーナー自らが家の設計や資材の選定など、建設全般に関する意思決定に参加し、家族のニーズや好みが主体的に反映されるようにプロジェクトを進めていきます。こうした実践的な学びを通して、ハビタットはホームオーナーだけでなく、コミュニティのメンバーが建築の質を確保する大切さを学び、コミュニティ内で取り組まれる未来の建築プロジェクトに生かすことができる、持続可能性のある支援を目指しています。

アスクル・エステーと協働:水不足への取り組みと衛生環境の改善

旧ロンアン省が抱える深刻な水不足を受け、ハビタットは、アスクル株式会社とエステー株式会社が協働で実施する「空気や水の環境を考えるプロジェクト」キャンペーンを通じて、WASHを支援してまいります。本キャンペーンを通じて、ハビタットは、旧ロンアン省で水へのアクセスを欠く12世帯に対して、安心して利用できる給水設備の設置を支援するほか、トイレの建築支援を通じて、更に12世帯が抱える劣悪な衛生環境の改善を目指すなど、計24世帯(約120人)を取りまく水と衛生環境を改善することで、直面する病気のリスクを軽減させ、健全な暮らしを支援してまいります。


安心、安全に暮らせる住まいは、明日への活力を養い、健康を守り、教育を受け、就労する上で欠かせない生活の基盤です。本プロジェクトは旧ロンアン省の家族、特に水資源が最も不足している貧困地域の家族の健康と生活の向上を目指すだけでなく、コミュニティ内でのレジリエンスを高める持続可能な開発を支援するプロジェクトです。サンゲツをはじめ、アスクル、エステーとの協働プロジェクトでは、26年3月の完了予定までに、住居建築や水と衛生設備の設置支援を通じて、計27世帯の住環境を整えることを目指すほか、コミュニティ内の大工8名を養成し、建築の質を確保した、持続可能性のある支援を目指してまいります。本プロジェクトに賛同くださるサンゲツ、アスクルそしてエステーの皆さまには心より感謝申し上げます。本プロジェクトに賛同くださる個人の皆さまのご支援は、こちらよりお願いいたします。