ハビタットの国内居住支援「プロジェクトホームワークス」で取り組む清掃・片付け支援は、ご自身による居室内の片付けが困難なご高齢の方や障がいをお持ちの方、またひとり親世帯を対象に、ボランティアの協力を得ながら居住環境の改善を目指す取り組みです。この取り組みには、支援対象となるご本人による片付けへの前向きな気持ちが欠かせません。生活の基盤となる住まいは、どのような環境であっても、そこに暮らす方にとっては思い出に残るモノが詰まる空間です。そのため、見ず知らずのボランティアを居室に迎え入れることに勇気が必要な人もいれば、大切なモノが処分されてしまうのではないかという不安を抱える人も少なくはありません。ハビタットは、支援対象となるホームパートナーの「住まいを改善したい」という意欲を第一に、ホームパートナーの気持ちに寄り添いながら清掃・片付け支援に取り組むことを大切にしています。
先日一年ぶりに訪問したのは、ご高齢の野坂さん(仮名)姉妹のお宅です。お二人とも視覚障害を持ち、妹さんは全盲です。1年半前に、お二人の地域生活を見守る高齢者総合相談センターの相談員からハビタットに相談が寄せられました。相談員さんと共に野坂さんのお宅を訪問すると、室内の衛生環境は決して良いとは言えず、ゴキブリやネズミが棲みついていることが確認できました。相談員さんの説得もあり、姉妹はハビタットの片付け支援を受け入れることになりましたが、片付け当日を迎えると、「掃除しなくていい。今のままでいいの」と姉妹は話します。その理由を尋ねると、お二人とも目に障がいがあるため、環境の変化に非常に敏感であることがわかりました。モノの位置が変わると、どこに移動したか分からなくなり、かえって生活し難い環境になってしまうという不安を抱えていました。また、目が見えないからこそ、大切なモノが誤って捨てられてしまうのではないかということを懸念していました。無理に片付けを進めると、ご本人の片付けへの前向きな気持ちを閉ざしてしまう可能性があるため、一先ずキッチンの清掃を行うことになりました。その結果、シンクは見違えるほどきれいな状態になりました。
あれから一年、今年の6月頃に再度相談員の方から連絡が入り、野坂さん姉妹の片付け相談が寄せられました。詳しくお話を伺うと、この1年間、相談員の方が姉妹を説得し続け、姉妹と離れて暮らす疎遠になっていたお兄さんにも連絡を入れて協力を仰ぐなど、姉妹の生活環境が良くなるように働きかけていたそうです。
姉妹が居室内の片付けに再び前向きになったこともあり、7月の始めに2回目の片付けを実施しました。当日は地域の相談員が2名、ハビタットから3名の計5名がボランティアとして活動に参加しました。野坂さんのお宅の玄関を開けると、埃やペットの毛、蜘蛛の巣など、長い間手付かずであった様子が伺えました。まずは、玄関の掃除から行うことにしました。靴箱にいっぱいになっていた靴を全て出し、妹さんに一つずつ靴を触ってもらいながら、いるモノと処分するモノを判断してもらいました。その半分以上が、今は使わない靴であることが分かり、処分を決断したことで、玄関周りはすっきりしました。処分とあわせ、今履いている汚れてしまった靴をボランティアが一つずつ丁寧に拭いてきれいにしてくれました。
玄関周りの片付けを終え、部屋の片付けに入ろうとすると、お姉さんは「やはり片付けなくていい…」と話し始めました。「いらないものはない。触らないでほしい」と言うお姉さんが、室内の環境の変化を恐れていることがよくわかりました。「絶対に勝手には捨てたりしません」と伝え、居室にあるものを一つずつ手にとってもらったり、広げて見せたりしながら確認作業を進めると、気持ちを落ち着かせてくださり、少しずつお部屋の片づけが進んできました。そして、この日の活動終わりにはごみ袋10袋ほどのモノを処分することができ、居室内に動き回るスペースが生まれました。
活動を終えると、「今度はいつ来てくれるの?またすぐに片付けに来てほしいわ」とお姉さんが話しかけてくれました。このお宅の環境改善には長い時間がかかります。姉妹が安心してハビタットと活動できるよう、引き続きお二人の気持ちに寄り添いながら、衛生環境が整う、安心して、そして安全に暮らせる居住環境が取り戻せるよう取り組んで参ります。ハビタットはこれからも、ボランティアの皆さんの力をお借りしながら、ホームパートナーさんの心に寄り添った清掃・片付け支援を継続してまいります。