今月新しいアパートへの引っ越しが決まった川口さん(仮名・60代)は、今年の春ごろ、急な脳梗塞の発症で視野がぼやけるようになりました。以来、仕事を続けることができなくなり、転宅を余儀なくされました。
川口さんは長くタクシー運転手をされてきました。収入が途絶えてしまったことから、これからは年金と蓄えてきた貯金で生活する必要があります。そのため、これまでの家賃を払い続けることは難しく、今年の5月頃、川口さんを担当する地域包括支援センターの担当者からハビタットに住まい探しの相談が寄せられました。ご本人とお話をしてみると、公営住宅への入居を強く希望されていたため、相談は一旦保留となりました。しかし、都内の単身世帯向け公営住宅の抽選倍率はとても高く、簡単には入居できない狭き門です。結果的に、川口さんは抽選に外れてしまい、10月の終わりごろご本人から再び相談が寄せられ、住まい探しが始まりました。
川口さんには、賃貸契約時に必要となる緊急連絡先としてご家族が登録できたこともあってか、不動産店から紹介される物件は比較的多く、中には真新しい物件の紹介もありました。しかし広く立派なお宅に住んでいた川口さんにとっては、ワンルームの部屋はあまりに狭く、「贅沢は言わないけど、できればキッチンに小さな食卓をおきたい」と、せめてもの希望を口にされていました。1回目の内見では希望通りの物件が見つかりませんでしたが、献身的な不動産店の担当者が物件探しの対象地域を少しだけ広げてくださり、2回目の内見の際には希望に近い物件を見つけることができました。申し込みをすると保証会社と大家さんの審査に入ります。「なんとかこの部屋に決まるといいな」と話す川口さんの願いが通じ、無事に入居先が決まりました。
12月はいよいよ引っ越しです。しかし、転宅にあたっては、必要な準備が山ほどあります。引っ越し業者の見積もりや大型家具の処分、電話やガス電気水道などの契約変更に、不動産店での賃貸契約など、視野がぼやけて細かい字を読み書きするのが難しい川口さんにとっては手助けが必要な手続きばかりです。ハビタットスタッフや地域包括支援センターの担当者をはじめ、社会福祉協議会の金銭管理サポートが銀行で必要な手続きを川口さんが行えるようサポートに入り、先日無事に引っ越しを完了することができました。
川口さんは突然の病気により障がいを抱えたことで仕事を失い、愛着のある住まいを失うことになったお一人です。ハビタットを含め、様々な立場から協力できる人たちや制度があったことで、ハビタットは川口さんの今後の生活を支える基盤となる新しい住まいを見つけることができました。「誰もがきちんとした場所で暮らせる世界」その実現には、様々な立場の方との連携が欠かせません。明くる年も住まいを必要とする方に安心して暮らせる住まいをつなげられるよう、入居支援を継続してまいります。