駅前の再開発計画により、転居を余儀なくされた方がいます。70代の栗原さん(仮名)です。「立ち退きを促す書類が家のポストに届いたので、新居探しを手伝ってほしい」そう栗原さんからの相談が連携する支援団体を通してハビタットに寄せられたのは昨年の12月頃のことです。その日から引っ越しが完了するまでの3ヵ月間、立ち退きへの不安を抱えた栗原さんの物件探しがはじまりました。

支援を開始するにあたり、まずは不動産店を通して、当時の大家さんに現状を確認することから始めました。すると、「法的な手続きは何もされていないので、引っ越す必要はないです。このまま住み続けていて問題ありません」と大家さんから説明を受けることになりました。不動産店からも栗原さんに状況を説明してもらい、当時のお住まいに不満のない栗原さんは、一先ずは住み続けることを選択されました。

しかし、その後も立退きを促す書類が栗原さんの元に届き続けたそうです。「やはり引っ越さなくてはいけないようだ」と栗原さんからハビタットに連絡が入ったのは今年の2月頃のことです。急いでお宅を訪問すると、すでに同じアパートの住人の大半が転居していました。状況を確認するため、今度は栗原さんと一緒に再開発事業を担当する会社に出向くことにしました。

そこで、「東京都による再開発の認可がおりたため、今のアパートに住み続けることはできません。期日までに退去してください」と担当者に言われることになりました。後にわかったことですが、アパートの大家さんは再開発に反対され、アパートの取り壊しを拒否し続けていたようです。東京都による事業認可がおりた以上、いずれはアパートが取り壊されてしまいます。この時、アパートの明け渡しの期日まで、既に残り1ヵ月ほどでした。

ここから急いで栗原さんのアパート探しが始まりました。栗原さんは内部疾患を持つため、屋外での移動時には電動シニアカートが欠かせず、新しいお住まいにはカートを置く広い駐車スペースが必要です。また、住み慣れた地域に住みたいという希望もお持ちでした。転居が盛んになる3月という時期も重なり、新居探しは難航しました。希望条件に近い物件を見つけても、電動カートの駐車スペースを理由に、大家さんから断られるといったこともありました。栗原さんはいつも気丈に振舞っていましたが、後に「引っ越しの期日が迫っていて、追い詰められているようだった」とその時の心情を話してくれました。

栗原さんのアパート探しでは、全部で5軒を内見し、当時のお住まいから近いお部屋が最終候補に残りました。しかし、この家の玄関前には数段の階段があります。そこで、栗原さんを連れて再び物件を訪れ、階段の高さや手を置く位置など、安全面を一つずつ確認した上で入居希望を申請しました。後日、無事に入居審査に通ったことを伝えると、栗原さんは本当に安心した様子を見せ、今までの栗原さんの心理的ストレスの大きさを感じずにはいられませんでした。

審査に通った後は、引っ越しに向けた準備です。お体の悪い栗原さんにとって、住まわれてきた家のモノや思い出をお一人で整理することは一苦労です。そこで、荷物の梱包もハビタットのスタッフがお手伝いし、3月末、栗原さんは無事に立ち退き期日までにアパートを出て、新しいお住まいでの生活をスタートさせることができました。

「思うように体が動かず、苛立つときもあった。やはり、新居探しも、引っ越しの準備も、ハビタットの支援がなく自分一人だったらできなかったと思う。本当にありがたかった」と新居での生活を始めた栗原さんからは、感謝のお言葉をいただきました。栗原さんの入居支援を通じて、改めて、お体が不自由な上にご高齢である方の引っ越しは、ご本人の心理的負担が大きく、サポートが必要であることを痛感しました。更に栗原さんのように期日を突き付けられた立ち退きでは、抱えるストレスは甚大なことが想像できます。ハビタットは、一人でも多くの方が安心して暮らせる住まいを持てるよう、ホームパートナーとなる相談を寄せてくださる方々の気持ちに寄り添うことを大切にしながら、引き続き入居をサポートして参ります。