桜が満開を迎える3月は卒業のシーズンです。社会人として新たな一歩を踏み出す大学生もいれば、学びを深めるために大学院に進学したり、一度立ち止まる時間を持つ学生とさまざまです。ハビタットの学生インターンとして活動を支えてくれた元ハビタット学生支部(CC:キャンパスチャプター)の小田さんは、この4月から大学院に進むことになりました。卒業を迎えるCCメンバーの一人として、ハビタットの海外建築ボランティア「グローバル・ビレッジ(GV)」への参加を機に今があると話す小田さんに、進路について、そして現役のCCメンバーに向けて学生生活を振り返って感じる思いを寄稿いただきました。ご覧ください。
こんにちは、立教大学4年生の小田広希と言います。3月はハビタット学生支部(CC:キャンパスチャプター)引退の季節ということで、CCを引退する3年生、これからのCCを支える1、2年生に向けてこの記事を書く機会を頂きました。以前もこうしてボランティアについて記事を書いていたので、この4年間、私と国際協力ボランティアとの関わりについて書きたいと思います。(初GV後に小田さんが寄稿くださった記事はこちら)
私は来年から、農業分野の国際協力について大学院で研究します。具体的には、気候変動で降水量が減ってしまった地域で、どれくらいの人がどれくらい困っているのかを明らかにする研究です。関連して、東南アジアの林業にも関心があります。学部では森林を自ら管理して生活する人々を卒論のテーマにしました。少し長くなりますが、ここでは3つのパートに分けて私の学生生活を振り返りたいと思います。
- 2度のGV参加を通して考えたこと
GVに初めて参加した際、家建築をお手伝いした家族(ホームオーナー)は「ようやく支援を受けられて嬉しい」と話し、涙を見せました。話を伺うと、支援を受けるための審査やハビタットスタッフとの面談など、住居支援の必要性が認められ、支援が決定するまでには時間がかかり、ようやく夢が叶ったということでした。一方、当時の自分は、GVの仕組みを理解しきれていなかったこともあり「もっと早く支援が出来ればよかったのに」と善意や熱意を持て余していました。
国際協力について関心を持ち、学ぶ中で、この“支援の必要性を見極める過程”は社会課題の解決のために必要なことだと理解できました。ただ、「被災地ボランティアが多すぎてかえって被災地の負担になってしまう」とか、「戦争に心を痛めて寄付したお金が戦争用の武器になってしまう」といった意見も理解できますが、私は『ただ誰かの役に立ちたい』という善意や熱意を無碍にしたくないと思っています。
- GVを経てチャレンジした新たな取り組み
私はCCに4年間所属し、2回のGV派遣を通してボランティアに関心を持ちました。一度のGV派遣には20万円程度の費用がかかり、そのうち5万円程度が寄付という形でハビタットの支援を通じて住まいを必要とする家族に届きます。しかし、裏を返せば、15万円程度はボランティアに参加する私の航空券代や滞在費として使ったことになります。20万円を募金することもできるのに、学生が15万円を使いボランティアに参加する意味は何か、それは、支援地を訪問し、自分自身の目で見て、ホームオーナーとなる家族から直接お話を聞くことができる価値だと思います。ただ、2度の参加を通じて、新しい形でボランティアに挑戦することを考え始めました。そこで、ボランティアに参加するのではなく、運営する側に立つために教育系NPOでインターンを始めました。主な仕事は、たくさんの学生教師ボランティアと話し合ったり勉強したりしながら、苦しい思いをしている子どものために何ができるかを考えることでした。
このインターンを通して、学業とボランティアを両立しながら成果を出す優秀な人とも、ボランティアの仕事が辛すぎて急に音信不通になる人、ボランティアに一生懸命になりすぎて留年する人とも出会いました。実際、学業とボランティアを両立している人は一定数いるので、とんでもなく大変なボランティアというわけではありません。しかし、気が付いたころには世間で”高学歴“と言われる学生ボランティアが多くなり、そうした中で特段優秀ではない自分が成果を出し続けるため、時に頑張りすぎることもあり、苦しい思いをしていました。睡眠や学業の時間を削ってまで頑張るのは嫌だし、成果が出ないのも嫌だ、そんな葛藤に悩まされる時期でした。
- そして、後輩に向けて
ここ2年間、コロナ禍のCC運営に苦労していると思います。私の周りにもGVや留学に行けなくなった後輩がいて、なんと言葉をかけて良いかわかりませんでした。ボランティアサークルという組織が活動することは、他の種類のサークルに比べて、大変難しいことだと思います。テニスサークルはテニスをするし、演劇サークルは演劇をしますが、ボランティアサークルはボランティアだけしているわけにもいかないからです。だから、ボランティアサークルの誰かが「ボランティア以外では何をする?」を考える必要があります。各CCのミーティングも、全国のCCが集まるJCC(ジャパンキャンパスチャプター)合宿もJCCイベントも、どちらかというと“ボランティア以外”の活動ですよね。これらの活動は、たぶん、大昔のボランティアサークルの先輩が考えた“ボランティア以外”の活動だと思います。そして、ボランティアサークルの4年間にとって、より重要なのが“ボランティア以外”だと思います。
テニスサークルで純粋に強いテニスプレーヤーを目指している人は少ないのではないでしょうか。本気で俳優を目指す演劇サークル部員も、私の交友関係の中にはいません。もちろん、どちらもサークル活動において重要な意味があると思いますが、テニスを通して得た体力とか友達とか、演劇を通して得たプレゼン力とか上手な打合せの進行方法とか、“テニス以外”“演劇以外”“○○以外”にこそ、サークル活動の価値が詰まっているのではないでしょうか。
ボランティアサークルも同様です。ボランティアに全く関係のないことで悩んだこと、PowerPointでかわいいスライドを作ろうと徹夜したこと、ミーティングの名簿を作ったこと、コロナ禍でボランティアの自由度が低いからこそ、余りある時間を“ボランティア以外”に費やすことが、皆さんの財産になると信じています。大学生活の半分がコロナ禍で、サークルの特色でコロナ前も“ボランティア以外”の時間が長かったCC出身者として、この記事が、少しでも現役のCCの皆さんの糧になってもらえれば嬉しいです。
- 学生時代の経験を糧に、新たなステージへ
先に述べましたが、私は来年から、気候変動で降水量が減ってしまった地域で、どれくらいの人がどれくらい困っているのか明らかにする研究をします。降水量が減ったとき、どこで、誰が、どれくらい困っているのか見極めるのには時間がかかります。豊かな生活をしている大きな農家だからこそ、大量の稲を失って急に生活ができなくなることもありますし、ダムと水路が繋がっているため被害を免れる農家もあります。
世界には素晴らしい技術が溢れています。水や栄養の少ない土地でも稲を育てる方法や、水が地面に吸収される量を抑える水路や、ダムで養殖漁業をする生活の知恵もあります。そして、こうした技術を共有しあい、この世界の農業をもっと良いものにしたいという善意や熱意が世界には溢れています。私には素晴らしい技術を産み出すことはできないですが、GVを経て至った「ただ誰かのためになりたい」という善意や熱意、そして教育ボランティアを通して自分の実力不足を知ったからこそ、熱意や善意が適切な場所に届きやすい『仕組み』を研究するという目標を持てるようになりました。
私の4年間が皆さんのロールモデルになどということはとんでもないことですが、“ボランティア以外”に時間を費やしたり、“ボランティア”から逃げ出したりしたことがひとつのきっかけとなって大学院進学が決まった私の4年間が、僅かでも学生生活の糧、そしてコロナ禍のCC運営のヒントになってほしいと願っております。